宝塚市北部・西谷。
まちなかから車を走らせ、田んぼと山に囲まれた道を抜けると、空気の色が変わる。
ここで、子どもたちが思う存分、自然の中で遊べる時間をつくり続けている人がいます。
西谷里山活用実行委員会 やまもり山里の中嶋静香さん。
西谷の県有林の保全活動を行い、そこを舞台に子どもたちへ自然体験を届けています。
10月3日に開かれる「西谷フォーラム&フェア 2026」。
そのパネルディスカッションに登壇される中嶋さんに、これまでの歩みと、大切にしている想いをうかがいました。
自然が、私を救ってくれた
中嶋さんは、大阪に生まれ、尼崎や西宮で育ちました。
子どものころの自然体験は、と聞くと、「思い浮かぶのは、家の近くの川の堤防と少し田んぼがあってそこでカブトエビを捕まえた記憶がうっすら」と笑います。
小さいころは、習い事に追われて、強制的な環境で勉強をしていたような、あまりのびのび自由を感じて遊んだ記憶がなくて……。
親の顔色を見て、自分の本当にやりたいこともわからなくなっていたような子ども時代が、どこか苦い思い出として残っているといいます。
転機は、20代のころ。
リゾートバイトで転々と地方を回っていた1つ、北海道・礼文島での体験でした。
「自然の中に身を置くと、涙が流れてきた。あらゆる自然の事象に感動し、生きものたちがいつもそばに在る暮らしが私を救ってくれた、と思っています」
「自然」と「子ども」。
この二つのことばが、中嶋さんのキーワードです。
もともと、学生のころから子どもと関わるボランティアを重ね、のちに保育士・幼稚園教諭の資格を取得。
神戸や尼崎、宝塚の保育の現場に、長く立ってきた方でもあります。
西谷に移住してからは、地域の子どもたちに関わることができたらと、西谷認定こども園でも働いてきました。
山に「惚れて」しまった
西谷の県有林で続く里山活動、「やまもり山里」。
中嶋さんがここに関わりはじめたのは、2016年ごろのことでした。
きっかけは、ひょうご・宝塚シェアリングネイチャーの会のメンバーに、ナカさんを紹介してもらったこと。
「やまもり山里を案内してもらって、そこで惚れちゃったんです」
その日から、西谷に通う日々がはじまりました。
整備活動には、親子で参加するメンバーもいました。
80代の大先輩から鉈やノコギリ、草刈り機など道具の使い方を教わり、大人にまじって、子どもたちも自然と手を動かし、学んでいく。

その姿に、中嶋さんは心を動かされました。
「誰かからの指示ではなく、子どもがおとなの姿を見て、自然と学んでいく。
それが、理想的な姿だなと思ったんです」
2016年から続く大人向けの植物観察会をはじめ、中嶋さんは事務局を引き継ぎ、2023年からは代表を務めています。
いまも「自然」と「子ども」をキーワードに、西谷の里山を守る活動を続けています。
その活動の中から生まれたのが、「生きもの観察会」と「やまもりっこクラブ」です。
生きものと出会いに、夢中になる時間
まずは、「生きもの観察会」から。
講師は、一般社団法人里山いきもの研究所のみなさんです。
生きものが大好きでとびきり詳しいお兄さんたちが、山へ来てくれます。
まずは、山に入るときの約束ごと。
マムシなどのヘビや蜂など、生きものと危なくない関わり方を教わります。
「マムシや、ハチ、ムカデ、シカやイノシシなどたくさんの生きものたちも、当然、山で暮らしている。
人間がその暮らしの中にお邪魔するわけです。関わり方を伝えてもらってから、山に入るんです」
あとは、思う存分虫さがし。

「見つけたー!」と歓声があがると、子どもたちが群がる。
忍者のように素早く駆け回る年上の子を追いかけて、小さな子たちも夢中で生きものを探しはじめます。
図鑑を片手に、自分の手で調べてみる。
不思議な生態を、面白く教えてもらう。
「決められたプログラムはありません。
自然のなかは、いつも変化し続けて、予測できないことが起きます。生きものに出会って、驚いたり、面白さに夢中になっている子どもたちと一緒におとなも夢中になって遊んだりしています」
開催は、1日に2回。
朝の回は9時半から11時半、夜の回は19時から21時までです。
夜は、ライトトラップを仕掛け、灯りに集まってくる虫たちを、親子で観察します。
昼とはまるでちがう、夜の里山の顔。
普段は出会えない生きものとの時間が、そこにはあります。

「また来たい」から生まれた、やまもりっこクラブ
もう一つの活動が、「やまもりっこクラブ」。
緑の少年団の事業として、昨年立ち上がりました。
西谷認定こども園の子どもたちは、お散歩でやまもり山里を訪れることがあります。
その子たちが小学生になり、「またやまもり山里で遊びたい」と言ってくれた。
その声が、背中を押しました。

ここでも、あえてプログラムはつくり込みません。
「里山で過ごすっていいな、楽しいな」。
自然の中で過ごす心地よさや楽しさを感じてもらえるような機会を大事にしたいと思っています。
保護者も一緒に来られる場合は、位置づけは「サポーター」でかかわっていただいています。
「子どもたちには、手出し口出しをせず、見守る。
子どもたちのやってみたいことを支える大人の在り方の大切さを、事前にお伝えしているんです」
子どもが、思う存分に
中嶋さんの活動には、いつも一つの軸が流れています。
それは、「遊ぶ」ということ。
「遊ぶことは、子どもの命の根源。
そのことばに出会って全てがつながったような感覚になりました」
大人が決めた枠組みや、結果を求められることなく、子どもたちはたのしいから遊ぶのであって、遊ぶことは生きることそのものだから、大人が奪うことはしたくない。
中嶋さんは、そう考えます。
子どもが自分の「やりたい」を思う存分に追いかけられる、その体験を、何より大切にしています。
背景には、「安心・自信・自由」という子どもの権利への想いがあります。
中嶋さんは、CAP(人権や暴力防止)の活動にも長く関わってきました。
「子どもたちの出会いが、全部、気づきになって、今の私がある。
安心と自信、自由が、その子にあるか。
いつも、そこを見ています」
幼いころに、自然の中で思いっきり遊ぶこと。
それは、その子の育ちの土台になる——。
そして西谷には、その舞台となる自然がある。
中嶋さんたちが、子どもたちのためにも守り続けている自然が。
「人間は、自然の一部。
西谷には土もあって、自然がある。
だからこそ、その中に身を置く時間を、子どもたちと一緒に過ごしたいんです」
生まれつつある、宝塚里山こども村
より多くの子どもたちと一緒に遊べるように——。
いま、やまもり山里の周辺の土地で、先人の子どもたちの自然体験の思いを受け継ぎ、「宝塚里山こども村」づくりが進んでいます。
まだ、草刈りや整備の途中。
それでも、育成会の子や、小学校の子どもたちが、少しずつ遊びに来はじめています。

整備をするところから、同じ思いで活動に加わってくれる人は大歓迎。
子どもたちと一緒に、遊びに来てくれるだけでも、うれしいと中嶋さんは言います。
10月3日、西谷フォーラムへ
10月3日、「西谷フォーラム&フェア 2026 〜西谷の魅力と学び〜」が開かれます。
中嶋さんは、パネルディスカッションの登壇者のひとり。
「自然の中で育つ」というテーマで、西谷での子育てや、子どもたちの体験について語ります。
虫が好きだから。自然が好きだから。
そんな、はっきりした理由がなくても、大丈夫。
「まずは、自然の中に来てみてほしい。
来てもらえたら、きっと何か感じるものがあるはずだから」
その第一歩として。
まずは10月3日の西谷フォーラムで、中嶋さんの話を聞いてみませんか。
さあ、自然の中へ。
子どもたちと、思う存分に遊びましょう。
西谷の里山は、いつでも待っています。
