西谷物語 〜雪降る里の贈り物〜西谷冬物語〜〜 #2-4

午後になると、山田さんから思いがけない提案があった。

「今夜、公民館で冬の集いがあるんです。よろしければ一緒に参加しませんか?」

「冬の集い?」

「地域の皆さんが集まって、手作り料理を持ち寄る交流会です。田中さんにも西谷の人たちと話してもらいたくて」

美咲は少し戸惑った。見知らぬ土地の集まりに参加するのは勇気がいる。

「でも、私は何も持参できませんし…」

「大丈夫です。一緒に作りましょう」

おばあさんが優しく微笑みかけた。

「今朝採れた野菜で、煮物を作りませんか?」

夕方、地区の公民館に向かった。雪道を歩く途中、家々の窓から漏れる温かい光が印象的だった。

地区の公民館に着くと、既に多くの人が集まっていた。年配の方が中心だが、若い夫婦や小さな子どもの姿もある。

「山田さん、今晩は」

「田中さんを紹介します。大阪からいらした方です」

次々に声をかけられ、美咲は戸惑いながらも挨拶を返した。

「遠いところから、ようこそ西谷へ」

「雪で大変だったでしょう?」

人々の温かい言葉に、美咲の緊張は徐々にほぐれていった。

テーブルには手作り料理がずらりと並んでいる。煮物、漬物、手打ちそば、焼き芋。どれも地元の食材を使った素朴だが心のこもった料理ばかりだった。

「これは私が作った黒豆の煮物です。どうぞ」

年配の女性が器に盛ってくれた。

「美味しい!」

「西谷で採れた黒豆なんです。この辺りは昔から豆作りが盛んで」

食事をしながら、地域の歴史や四季の暮らしについて聞かせてもらった。冬は雪に閉ざされがちだが、だからこそ近所同士の結びつきが強いのだという。

「都市部では、隣に誰が住んでいるかも分からないことがありますよね」

若い母親が話しかけてきた。

「私も結婚を機に西谷に来たんですが、最初は心細くて。でも皆さんがとても親切にしてくださって」

美咲は自分の生活を振り返った。大阪のマンションでは、隣人と挨拶することもほとんどない。

「こういう交流、素晴らしいですね」

「昔からの伝統なんです。冬の長い夜を皆で過ごす」

山田さんが説明してくれた。

外では雪がちらつき始めていたが、地区の公民館の中は笑い声と温かい会話に包まれていた。

美咲は静かに周りを見回した。ここには、都市部で失われがちな人と人との繋がりがあった。

心の奥で、何かが静かに変化していくのを感じていた。