西谷物語 〜雪降る里の贈り物〜西谷冬物語〜〜 #2-5

翌朝、美咲は激しく窓を打つ音で目を覚ました。

カーテンを開けると、一面の銀世界が広がっていた。昨夜から降り続いた雪は、膝の高さまで積もっている。

「おはようございます。すごい雪ですね」

階下に降りると、山田さんがテレビのニュースを見ていた。

「記録的な大雪で、阪急宝塚線が運休しているそうです」

美咲の顔が青ざめた。今日は会社の重要な会議がある。

「携帯の電波も不安定で…」

スマートフォンを握りしめたが、圏外表示のままだった。

「心配しないで。こういう時は無理をしないのが一番です」

山田さんは慣れた様子で言った。

「でも、会議が…」

「命の方が大切でしょう?」

その時、玄関の戸を叩く音がした。

「山田さん、大丈夫ですか?」

近所の男性が雪かきのスコップを持って立っていた。

「ありがとうございます、田村さん」

「一人じゃ大変でしょう。みんなで道を確保しましょう」

続々と近隣の住民が集まってきた。年配の方も若い人も、皆で雪かきを始めた。

美咲も手伝おうと外に出た。雪は思った以上に重く、すぐに息が上がった。

「慣れないでしょう? ゆっくりで大丈夫ですよ」

隣で作業していた女性が声をかけてくれた。

「昨夜の集いでお会いした…」

「佐藤です。西谷に嫁いで二十年になります」

二時間ほどの作業で、公民館までの道筋ができた。

「お疲れさまでした。温かいお茶でも飲みませんか?」

山田さんが皆を家に招いた。

狭い居間に十人ほどが集まった。湯気の立つお茶と、昨夜の残りの煮物が振る舞われた。

「去年も大雪でしたけど、今年は特にひどいですね」

「でも、こうして皆で協力すれば何とかなる」

温かい会話が続いた。美咲は不思議な安心感に包まれていた。

会社では、個人の成果ばかりが重視される。隣の席の同僚でさえ、時にライバルに感じることがある。

しかし、ここでは自然に助け合いの輪ができていた。

「田中さん、大阪では雪はどうですか?」

「これほど積もることはありませんが、電車が少し遅れただけで皆イライラしてしまって」

「ここでは雪は当たり前。だから、ゆっくり構えるんです」

田村さんが笑った。

美咲は窓の外を見た。雪は相変わらず降り続いているが、もう焦りは感じなかった。

会社に連絡が取れなくても、きっと理解してもらえる。それよりも、今この瞬間を大切にしたいと思った。

「ありがとうございます。皆さんの温かさに救われました」

美咲の言葉に、皆が優しく微笑み返した。

雪に閉ざされた西谷で、美咲は本当の豊かさを見つけ始めていた。