ひかるの「囲い込み戦術」は、理論上は完璧だった。
「山村警部シリーズ第十三巻では、犯人を誘導するために餌を使ったんです!」
そう言って、ひかるは住民たちと一緒に畑の周囲にサツマイモやニンジンを点々と置いていく。イノシシを別の場所におびき寄せる作戦だった。
「これでイノシシは畑から離れて…」
翌朝、結果は惨憺たるものだった。
「あああああ!」
サツマイモに誘われて集まったのは、一頭どころか親子連れのイノシシファミリー。しかも、餌を食べ終わった後、ご丁寧にも隣の畑まで荒らしてくれていた。
「増えてる…」健太が青い顔で呟く。
「完全に失敗や」田辺さんがため息をつく。
ひかるは立ち尽くした。推理小説の知識が役立つと思っていたのに、現実はそんなに甘くない。
「す、すみません…」
その時、山田おばあちゃんがゆっくりと歩いてきた。
「あらあら、大変やったのね」
荒らされた畑を見ても、おばあちゃんは怒るどころか、なぜか微笑んでいる。
「でも、みんながこんなに頑張ってくれて。私、もう十分嬉しいわ」
「で、でも…」
「花は枯れても、心に咲いた花は永遠やから」
おばあちゃんの言葉に、住民たちの表情がぱあっと明るくなった。
「そうや!みんなの気持ちが一番のプレゼントやな」
田辺さんが笑いながら言う。ひかるの胸に、温かいものがじんわりと広がっていく。
六甲山系の緑が輝く西谷で、本当に大切なものを学んだ気がした。
