蛍博士のドタバタ大作戦 〜西谷の夏、光る虫と踊る日々〜 #7-5

川の水質が改善されて一週間。光男は毎日のように夕暮れ時に川辺を歩いていた。測定器のデータは確実に良くなっているのに、肝心の蛍はまだ姿を見せてくれない。

「まあ、そう簡単にはいかないよね」

そう自分に言い聞かせながら、今日もいつものコースを歩いていると、川向こうの木陰に小さな光が見えた。

光男の心臓が跳ね上がった。

「あ、あれは!」

淡い緑色の光が、ふわりふわりと舞っている。間違いない。これこそが蛍の光だ。

「やった、やったよ!」

光男は思わず声を上げて、川辺に駆け寄った。感動で目頭が熱くなる。二十七年間、論文でしか知らなかった蛍の光を、ついに自分の目で見ることができた。

「おーい、光男くん、何しとるんや」

振り返ると、散歩中のおばあちゃんが不思議そうに立っていた。

「おばあちゃん、見てください! 蛍です、蛍! あの光!」

おばあちゃんは光男が指差す方向を見て、首をかしげた。

「あれ、街灯やで」

「え?」

よく見ると、確かに電柱の上で蛍光灯がちらちらと点滅していた。故障して不安定になっているだけだった。

「あはは、博士ともあろうお方が」

おばあちゃんの笑い声に、光男は顔を真っ赤にした。

その時だった。

本当に小さな、けれど確かな光が、二人の前をゆっくりと横切っていく。今度は間違いなく、本物の蛍だった。

「あ」

光男とおばあちゃんは同時に息を呑んだ。

やわらかな光が夕闇に溶けながら、静かに川面へと向かっていく。二人はただ黙って、その神秘的な光景を見つめていた。

「きれいやなあ」

おばあちゃんの小さなつぶやきに、光男は深くうなずいた。論文では決して味わえない、本物の感動がそこにあった。