蛍博士のドタバタ大作戦 〜西谷の夏、光る虫と踊る日々〜 #7-6

朝から空が重たい色をしていた。光男は測定器を手に川辺に立っていたが、嫌な予感が胸をよぎる。

「台風、こっちに来るみたいやで」

振り返ると、長靴を履いたおじいさんが心配そうに空を見上げていた。

「えっ、台風ですか?」

「テレビで言うとった。明日の夜には西谷も暴風域に入るって」

光男の顔が青くなった。せっかく水質が改善されて、蛍も姿を現し始めたのに。台風が来たら川が濁って、今までの努力が水の泡になってしまう。

案の定、翌日の夜から風雨が激しくなった。光男は自分の部屋で窓の外を見つめながら、がたがた震えていた。風の音が怖いのではない。明日の川の状況を想像すると、胃が痛くなるのだ。

「ああ、蛍さんたち、大丈夫かな」

一睡もできないまま朝を迎えた光男は、雨が止むとすぐに川へ向かった。

そして、予想通りの光景を目にした。

「うわあああ」

川は茶色く濁り、ゴミや枝が流れている。せっかくきれいになった川辺も、泥だらけだった。

「光男くん、大丈夫かいな」

声をかけられて振り返ると、昨日のおじいさんが軍手をはめて立っていた。その後ろには、おばあちゃんたちも数人いる。

「皆さん…」

「自然のことやから仕方ないわ。でも、みんなでまたきれいにしたらええんや」

おばあちゃんの言葉に、光男は目頭が熱くなった。

「そうや、前よりもっときれいにしたろ」

「蛍さんのために頑張ろな」

気がつくと、十人以上の人が集まっていた。みんなで泥を取り除き、流れてきたゴミを拾い、丁寧に川辺を整備していく。

光男も測定器を脇に置いて、一緒に作業した。汗を流しながら働いていると、なんだか心が軽くなっていく。

「ありがとうございます、皆さん」

「なんの、みんなの川やもん」

夕方には、台風前よりもずっときれいな川辺が姿を現していた。