軽トラックの後を追いながら、美咲は西谷の冬景色に見とれていた。道の両側に広がる田んぼは雪に覆われ、まるで白いじゅうたんのよう。遠くには六甲の山並みがくっきりと見えている。
「こちらです」
軽トラックが古い民家の前で止まった。案内してくれた男性が車から降りてくる。
「農事組合法人はもう少し先なんですが、この雪だと道が危険です。まず我が家で温まっていかれませんか」
美咲は時計を見た。もう4時を過ぎている。
「でも、お忙しいでしょうし…」
「いえいえ、遠慮はいりません。山田と申します。雪道の運転は慣れていないと危ないですからね」
山田さんの人柄の良さが滲み出る笑顔に、美咲は素直に甘えることにした。
「田中と申します。ありがとうございます」
山田さんの家は築年数を感じさせる木造の農家住宅だった。玄関を開けると、薪ストーブの温かさが頬を包む。
「おばあちゃん、お客さんだよ」
奥から小柄なおばあさんが現れた。
「まあ、雪の中大変でしたね。さあさあ、上がって」
「恐れ入ります」
居間に通されると、薪ストーブの炎がゆらゆらと踊っていた。窓の外では雪がしんしんと降り続いている。
「ぜんざいでも作りましょうか」
おばあさんがにこやかに言う。
「いえ、そんなお気遣いは…」
「西谷の黒枝豆で作った甘納豆は美味しいんですよ」
山田さんが自慢げに話す。
「この辺りは黒枝豆で有名なんです。丹波の土と気候が合うんでしょうね」
美咲は薪ストーブの前で手を温めながら、二人の温かい人柄に触れていた。大阪での忙しい毎日とは正反対の、ゆったりとした時間が流れている。
「お仕事で西谷へ?」
「はい。イベント企画の仕事で…」
「イベントですか。面白そうですね」
山田さんの目が輝いた。
「西谷でも何かイベントができるといいんですがね。この美しさを多くの人に知ってもらいたくて」
その時、おばあさんが湯気の立つぜんざいを運んできた。
「はい、どうぞ。体が温まりますよ」
一口すすると、優しい甘さが口いっぱいに広がった。小豆の風味が濃く、心も温まる味だった。
「美味しい!」
「よかった。西谷で採れた黒枝豆を使った甘納豆ですからね」
窓の外の雪景色を眺めながら、美咲は不思議な安らぎを感じていた。
こんな温かい出会いがあるなんて。