雪がやんだ翌朝、山田さんが美咲を起こしに来た。
「田中さん、よく眠れましたか?今日は畑を案内しますよ」
昨夜は山田家にお世話になった美咲。久しぶりにぐっすりと眠ることができた。
「おはようございます。ご迷惑をおかけして」
「とんでもない。さあ、朝ごはんを食べたら出かけましょう」
おばあさんが温かいおにぎりと味噌汁を用意してくれた。味噌汁の具は昨日収穫したという大根と人参。素朴だが、野菜の甘みがしっかりと感じられる。
「美味しい…」
「西谷の野菜は甘みが違うんです。寒暖差があるからでしょうね」
山田さんが長靴を持ってきてくれた。
「これを履いてください。畑は雪で滑りやすいから」
外に出ると、昨日とは違う景色が広がっていた。雪がすっかりやんで、青空が顔を出している。真っ白な畑の向こうに、武庫川が静かに流れているのが見えた。
「あそこが我が家の畑です」
山田さんが指差した先に、雪をかぶった畑が広がっている。よく見ると、雪の下から緑色の葉っぱが顔を出していた。
「冬でも野菜を作られているんですね」
「ええ。白菜やほうれん草、小松菜なんかは雪の下でも育つんです。むしろ寒さに当たった方が甘くなる」
畑に着くと、山田さんは慣れた様子で雪をかき分けて野菜を掘り起こし始めた。
「手伝ってもらえますか?」
美咲は恐る恐る雪に手を入れた。冷たいが、不思議と心地よい。雪の下から立派な白菜が現れた。
「すごい!雪の下にこんな立派な野菜が」
「自然の力はすごいでしょう?」
山田さんが微笑む。
「都市部では味わえない豊かさがここにはあります」
美咲は白菜を抱え上げながら、その重みを感じていた。土の匂い、雪の冷たさ、そして野菜の生命力。
「私、こんな経験は初めてです」
「西谷の冬は厳しいけれど、だからこそ得られるものがある。野菜も人も、強くなるんです」
遠くの山並みを眺めながら、美咲は何かが変わり始めているのを感じていた。仕事に追われる日々では忘れていた、大切なものがここにはあった。
「田中さん、西谷をどう思われますか?」
「素晴らしい場所ですね。時間がゆっくり流れて…」
心の奥で、小さな変化が始まっていた。