翌朝、公民館前で田中と合流した信一郎は、川の再生活動のメンバーたちと顔を合わせた。年配の女性から若い夫婦まで、十数人が水質調査の道具を手に集まっている。
「皆さん、こちら昨日お話しした桐山さんです」
田中の紹介で軽く挨拶を交わすと、一行は波豆川へと向かった。コンクリート護岸の川で、メンバーたちは慣れた手つきでpH測定や生物調査を始める。
「この川、昔は本当にきれいだったのよ」
隣で水温を測っていた七十代の女性、山本さんが話しかけてきた。
「私が子供の頃は、夏になると蛍がそれはもう幻想的で。川底まで見えるほど透明だったの」
信一郎は父の遺品の写真を思い出した。
「いつ頃から変わったんでしょうか」
「三十年ほど前かしら。大きな開発計画があって、上流に土砂が流れ込んで…」
山本さんの表情が曇った。
「あの時、反対運動もあったのよ。新聞記者の方も取材に来られて。でも結局、計画は強行されて」
信一郎の胸が高鳴る。
「その記者の方のお名前、覚えていらっしゃいますか」
「桐山さんとおっしゃったかしら。とても真剣に話を聞いてくださって」
信一郎は息を呑んだ。間違いない、父のことだ。
「でも不思議なことに、記事になることはなかった。あれだけ熱心に取材されていたのに」
山本さんの言葉に、田中が振り返る。
「そういえば、うちの親父も同じことを言ってました。あの記者は何かを掴んでいたはずだって」
川面を見つめながら、信一郎は父の無念を感じていた。ここに確かに、封印された真実があるのだ。
