蛍博士のドタバタ大作戦 〜西谷の夏、光る虫と踊る日々〜 #7-1

六月の西谷は、緑が濃くて、空気がやわらかくて、なんだか生きているものすべてを包み込むような優しさがあった。

田中光男は、その優しさにちょっと戸惑いながら、公民館の前に立っていた。手にはずっしりと重い研究資料の入ったカバンと、「蛍復活プロジェクト始動!」と書かれた看板。

「あの、田中先生でしょうか」

振り返ると、エプロンをしたおばあちゃんが三人、にこにこしながら立っていた。

「はい、そうです。よろしくお願いします」

光男は慌ててお辞儀をした。

「まあ、若い先生やなあ。蛍のこと、なんでも知ってはるんやろうなあ」

「はい、まあ、一応博士号も取りまして」

「すごいなあ。それやったら、波豆川の蛍、昔はようけおったんやけど、どうしたら戻ってくるかなあ」

光男の顔が、急に青ざめた。

「あの、実は……」

「実は?」

「野生の蛍を、見たことがないんです」

静寂。

カラスの鳴き声だけが、やけに響いた。

「え?」

「机の上の研究ばかりで、実際の蛍は……写真とか、標本でしか」

おばあちゃんたちは顔を見合わせて、それからくすくすと笑い始めた。

「まあ、かわいい子やなあ」

「そんなん、見せたらええがな。今年の夏には、きっと見せたるから」

「心配せんでええよ。みんなでお世話したるから」

光男は、なんだか涙が出そうになった。

この温かさに包まれていたら、本当に蛍が戻ってくるような気がしてきた。