柏の葉の煙 〜西谷・端午の里山にて〜 #11-6

朝から霧が出ていた。

波豆川沿いの田んぼが白く霞み、蛙の声だけが靄の中に響いている。

公民館の台所では、せいろの湯気が天井まで上がっていた。ハナをはじめ集落の女たちが、前掛けをして並んでいる。省吾は隅に立ち、蒸し上がりを待った。

ところが、せいろの蓋を開けたとき、省吾は息をのんだ。

自分が包んだ柏もちのいくつかが、葉を破って白い腹をのぞかせていた。葉の重なりが足りなかったのだ。包みが甘かった。

女たちが目を合わせた。誰も何も言わなかった。それがかえって、胸に刺さった。

省吾は黙って立ち尽くした。職人だった。三十年、菓子を作ってきた。それが、こんな体たらくだ。

「破れても、中身は同じや」

ハナが、静かに言った。

余計な言葉はなかった。ただそれだけだった。

省吾は、ぐっと奥歯を噛んだ。

店を畳んだ日のことが、不意によみがえった。シャッターを降ろして、裏口で一人しゃがみこんだ。泣けなかった。泣いてはいけないと思っていた。

息子から電話が来た夜も、おめでとうと言えなかった。

光子が逝ったとき、葬儀の間じゅう、顔を上げ続けた。

ずっと、何かを閉じたままだった。

省吾は目頭を押さえた。人前で、初めてのことだった。

ハナは何も言わず、破れた柏もちをひとつ手に取った。葉を丁寧に開いて、白い餅を確かめるように見て、それから皿の上に並べた。

「ちゃんと美味しいわ。食べてみい」

窓の外で、霧がすこしずつ薄れていた。波豆の山の稜線が、淡い朝の光の中に姿を現してきた。