土を耕す、君と耕す 〜西谷の風と、十八歳の夏〜 #14-5

収穫祭の前日、農園の軒先に野菜が並んだ。

泥つきのかぼちゃ、ずんぐりしたにんじん、葉つきのままの大根。不揃いで、いかにも手作りな感じがする。蒼は段ボール箱に詰める係を頼まれ、葵の指示に従って作業していた。

「もうちょっとていねいに」

「これ以上丁寧にしたら終わらん」

「農家の野菜は見た目も大事」

そういうもんか、と蒼はしぶしぶ向き直った。

日が傾いて、波豆川のほうから涼しい風が来る。作業がひと段落したころ、葵が急に言った。

「ねえ、蒼。あたし、美大受けようか考えてる」

手が止まった。

「西谷の景色を、ちゃんと絵にしたくて。ずっとそう思ってたんだけど」

葵は膝を抱えて、川のほうを見ていた。

「出ていくのが怖いんだよね。ここを離れたら、描きたいものから逆に遠くなる気がして」

うまいことが言えなかった。

「……蒼は、なんで進学しなかったの」

「逃げたんだと思う」と蒼は答えた。「何をしたいかわからなくて、決めるのがしんどくて。気づいたらここにいた」

「逃げたの?」

「……それも、まだわからん。逃げたのか、立ち止まったのか」

正直に言ったら、少しだけ楽になった。

葵は少し考えてから、「そっか」とつぶやいた。

「でも蒼、最近ちゃんと土さわってるじゃん。毎朝来てるし」

「……それは」

「立ち止まりながら、動いてると思う」

何も言い返せなかった。

夜の空気が下りてきて、遠くで虫が鳴いた。並んだ野菜が、夕暮れの光の中でやけにきれいに見えた。