収穫祭の前日、農園の軒先に野菜が並んだ。
泥つきのかぼちゃ、ずんぐりしたにんじん、葉つきのままの大根。不揃いで、いかにも手作りな感じがする。蒼は段ボール箱に詰める係を頼まれ、葵の指示に従って作業していた。
「もうちょっとていねいに」
「これ以上丁寧にしたら終わらん」
「農家の野菜は見た目も大事」
そういうもんか、と蒼はしぶしぶ向き直った。
日が傾いて、波豆川のほうから涼しい風が来る。作業がひと段落したころ、葵が急に言った。
「ねえ、蒼。あたし、美大受けようか考えてる」
手が止まった。
「西谷の景色を、ちゃんと絵にしたくて。ずっとそう思ってたんだけど」
葵は膝を抱えて、川のほうを見ていた。
「出ていくのが怖いんだよね。ここを離れたら、描きたいものから逆に遠くなる気がして」
うまいことが言えなかった。
「……蒼は、なんで進学しなかったの」
「逃げたんだと思う」と蒼は答えた。「何をしたいかわからなくて、決めるのがしんどくて。気づいたらここにいた」
「逃げたの?」
「……それも、まだわからん。逃げたのか、立ち止まったのか」
正直に言ったら、少しだけ楽になった。
葵は少し考えてから、「そっか」とつぶやいた。
「でも蒼、最近ちゃんと土さわってるじゃん。毎朝来てるし」
「……それは」
「立ち止まりながら、動いてると思う」
何も言い返せなかった。
夜の空気が下りてきて、遠くで虫が鳴いた。並んだ野菜が、夕暮れの光の中でやけにきれいに見えた。
