土を耕す、君と耕す 〜西谷の風と、十八歳の夏〜 #14-6

台風が去った朝、波豆川は茶色く濁っていた。

農園に着いた蒼は、息を飲んだ。

トマトの畝が、ほぼ全滅だった。支柱が傾き、茎が折れ、赤くなりかけの実が泥の上に転がっている。昨日まであんなに丁寧に世話をしていた畑が、一晩で別の場所みたいになっていた。

拓海は畝の前にしゃがんで、動いていなかった。

声をかけようとして、やめた。

蒼は黙って隣に膝をついた。泥が冷たかった。

しばらく、二人とも何も言わなかった。

「……やるか」

先に立ち上がったのは蒼だった。拓海は少し遅れて、うなずいた。

支柱を拾い、根元に刺し直す。倒れた茎を起こして、麻紐で結ぶ。もう間に合わないものもあった。それでも、動かせる手は動かした。

作業の途中、拓海がぽつりと言った。

「俺、ここで食っていけるか怖いんだよ、ずっと」

手を止めずに、続ける。

「農業やるって決めた。好きだし、やりたい。でも毎年こういうことがあって、毎年どうなるかわからんくて」

蒼は泥のついた手を見た。

「俺なんか、怖いかどうかもわかってないけど」

「は?」

「何が怖くて何から逃げてんのか、まだそこからわかってないから。拓海のほうが、ちゃんと怖がってると思う」

拓海が、小さく笑った。

「それ、フォローになってんの?」

「なってないかも」

「……まあいいわ」

また黙って、手を動かした。

空はもう晴れていた。西谷の山の上に、洗ったような青が広がっている。風は湿っていて、草と土の匂いがした。

泥だらけのまま、二人は畝の端まで戻っていった。