6月7日、日曜日。西谷ふれあい夢プラザの調理実習室に、親子連れが集まりました。
「―西谷で見つける!― わがまちのお宝プロジェクト」の第1回。
全5回シリーズの最初のテーマは、この地域で100年以上受け継がれてきた「ちまき」づくりです。
集まったのは10家族、約30名の親子。
エプロンに三角巾という出で立ちの子どもたちが、地域のおじいちゃん・おばあちゃんに教わりながら、西谷の伝統に触れる一日となりました。

一日は、早朝の採集から始まっていた
体験会のスタートは朝10時。
けれど、地域の人たちの一日は、もっとずっと早くに動き出していました。
「新鮮なものでないと、ちまきはできへんのです」
そう語るのは、西谷ちまき保存会の仲さん。
ちまきを包む葉は、その日の朝に刈り取った採れたてでなければならない、と言います。
まだ陽も低い朝5時から6時頃。
保存会のメンバーは、ちまきづくりに欠かせない葉を集めに動き出していました。
大原野川で刈り取ったのは、川辺に育つ「ヨシ」。
裏山で摘んだのは、ちまきを直接包む「ナラガシワ」の葉です。
そして、束ねて結ぶ紐になる「ガマ」は、1か月ほど前に採って干し、あらかじめ紐に仕立てておいたもの。
ナラガシワの葉、ヨシ、ガマの紐、うるち米粉ともち米粉。
ちまきを形づくる材料はすべて地域の中でそろいます。


一方、東部公民館では地域の女性たちが生地づくり。
うるち米ともち米の粉を6対4で混ぜ、水を加えて、時間をかけて手でこねていきます。
機械は使いません。
昔ながらの手作業で練り上げる——それが、西谷・東部地域に伝わるちまきの流儀です。
91歳の先生に教わる、「包んで・覆って・結ぶ」
講師として参加者を迎えたのは、この道の大先輩、なんと今年91歳になる嶋田さんです。

下ごしらえした生地を、ちまき一つ分の大きさにちぎり、先をとがらせて形づくる。
大きく育ったナラガシワの葉を2枚使って包み、その上をヨシで覆う。
最後に、ガマの紐できゅっ、きゅっと結んでいく。
嶋田さんの手元から生まれる、美しいちまきの形。
その鮮やかな手つきに、子どもも大人も思わず見入ります。
「これ、子どもでもできるの?」
そんな心配をよそに、地域のおばあちゃんたちに手ほどきを受けながら、お子さんたちも親御さんたちも、少しずつ上手に巻き上げていきました。
5株、10株とまとめて束ね、大きな鍋でぐつぐつと40分。
茹で上がりを待つ間にも、この日にしか聞けない話が待っていました。



茹で上がりを待つ40分は、「ちまきの物語」を知る時間
なぜ、西谷のちまきは国の「100年フード」に選ばれたのか。
参加者は会議室に集まり、仲さんの話に耳を傾けました。

西谷のちまきは、令和2年に宝塚市の無形民俗文化財に認定され、令和5年には文化庁の「100年フード」にも選ばれた、由緒ある郷土食です。
けれど、その歩みは決して平坦ではありませんでした。
かつて西谷をはじめ各地で作られていたちまきは、高度経済成長の波の中で姿を消し、30年から40年もの間、途絶えていたのです。
転機は2015年。
地域の集まり「東部サロン」で交わされた、「昔食べたちまきが懐かしいなあ」というひと言から、復活への挑戦が始まりました。
地域の人々、行政(市の社会教育課)、そしてちまきを長年研究してきた専門家。
三者が手を取り合うことで、一度は消えかけた味が、再びこの地によみがえったのです。

西谷の人にとって、ちまきとは
西谷のちまきが特別なのは、その素材すべてが「地域の恵み」でできていること。
地域で採れた米、地域の川に育つヨシやガマ、地域の野山のナラガシワ。
材料を100%この土地でまかなう——そこに、西谷ちまきの誇りがあります。
そして、ちまきは6月のほんの限られた時期にしか作れない、季節の味でもあります。
田植えの季節、そして端午の節句。
汗を流した労をねぎらい、神様や仏様にお供えし、子どものおやつになり、嫁いだ娘が里帰りの手土産に持たせる。
ちまきは、暮らしのさまざまな場面に寄り添いながら、世代から世代へと受け継がれてきました。
それは単なる食べ物ではなく、人と人とのつながりそのもの。
西谷の人々が大切に守ってきた、心の味なのです。
「味がない」はずのちまきが、美味しい
仲さんの話に耳を傾けているうちに、大鍋のちまきはちょうど茹で上がり。
いよいよ、お待ちかねの試食の時間です。
実は、保存会の仲さん自身、長らくこう思っていたそうです。
「正直、味がなくて、美味しいというイメージはなかったんです」
ところが今回、何もつけずにそのまま口にしてみて、驚いたと言います。
「美味しいんですよ。ナラガシワの葉やヨシの香りが、40分茹でる間にちまきへ染み込んでいくんです」

砂糖をたっぷり使った、一年中売られている甘いちまきとは別物。
ほんの少しの塩だけで仕上げる、素朴な味わいです。
不思議なもので、ちまきの背景や歴史を知り、その歩みを噛みしめながら口に運ぶと、素朴なはずの味に深みが生まれます。
どこか懐かしいその味わいが、じんわりと美味しく感じられる。
飾り気のない一口に、自然の恵みと、地域が紡いできた時間が詰まっているからかもしれません。


市外からも集う、西谷の魅力に触れる時間
この日集まった家族の多くは、車に乗って西谷を訪れた人たち。
中には、神戸市や池田市など、市外から足を運んだ家族もいました。
ホームページやネットでこの体験会を知り、「西谷ってどんなところだろう」と興味を持って申し込んでくれた人も少なくありません。
西谷を知っている人も、まだ知らない人も。
この土地の歴史や暮らしに触れ、つくる楽しさ・食べる喜びを分かち合った一日となりました。
参加した10家族は、この先の4回のプロジェクトにも続けて参加してくれる予定です。
次回は、えびすさんの飾り作りに挑戦するのだとか。
体験を通じて西谷に親しみを感じる人を増やし、この地域の魅力を発信していく。
お宝プロジェクトの、確かな第一歩となりました。

朝の川で刈った一本の葉が、
親から子へ渡されていく。
西谷のちまきは今日も、
誰かの忘れられない味になる。
