夜明け前から、翁は動いていた。
波豆川沿いの雑木林から切り出したコナラの丸太が、窯の前に積み上げられている。煌太が駆けつけた時、翁はすでに斧を手に持ち、静かに木の年輪を見つめていた。
「割り方には順序がある。木目を読め」
低く、しかし確かな声だった。
煌太は斧を受け取り、丸太と向き合った。汗が滲む前に、リョウが横に並んだ。ハナとツバサも続く。
「俺たちもやる」
リョウの声に迷いはなかった。
炎天下、四人は交代で斧を振るった。割れた木片が飛び、コナラの清潔な匂いが漂う。西谷の夏は容赦がない。肌を刺す日差しの中、誰一人として音を上げなかった。
窯に木を詰め、火を入れた。
口から煙が昇りはじめた頃、煌太はしゃがんで炎を見つめた。子どもたちが隣に並ぶ。
「ねえ、なんで木は燃えて黒くなるの」
ハナが静かに問うた。
煌太は少し考えてから、口を開いた。
「炭になるんだ。燃え尽きるんじゃなくて、形が変わる」
火が窯の奥でゆらめく。
「木は炭になっても、まだ熱を出し続ける。諦めた瞬間に消えるんじゃない——酸素を断たれた時に消えるんだ」
ツバサが膝を抱えたまま、ぽつりとこぼした。
「……消えそうな時、どうすればいい」
煌太は、かつて自分が問い続けた問いを、今この少年の目の中に見た。
「燃え続けることだ。形が変わっても、熱だけは残る」
翁が遠くで見ている。波豆川の瀬音が耳をかすめた。
窯の中で炭が熾きに変わっていく、その音が、四人の沈黙を静かに満たしていた。
