収穫祭の朝、西谷の空は高かった。
農園に並んだ野菜たちは、正直に言えば不格好だった。台風の傷が残るトマト、少し小ぶりなナス、曲がったキュウリ。それでも、ちゃんと実っていた。
蒼は前日の夜、撮りためた写真をプリントして、手描きのポップを作った。波豆川の朝霧、畑に差し込む夕光、泥だらけの自分たちの手。写真の横に、ひとことだけ添えた。
「ここで育ちました」
祖父がそれを見て、しばらく黙っていた。
「お前がいてくれてよかった」
ぽつり、と。
蒼は返す言葉が見つからなくて、「うん」とだけ言った。それで十分だった気がした。
収穫祭は賑わった。地元の人たちが野菜を手に取って、値段を聞いて、笑った。不格好なトマトも、気づけば売り切れていた。
夕方、片付けが終わった頃、葵が隣に来た。
西谷の山の稜線が、茜色に染まっていた。
「蒼、次の春も来る?」
静かな声だった。試すでもなく、責めるでもなく、ただ聞いている感じがした。
蒼は少し間を置いた。
進路はまだ決まっていない。何になりたいかも、まだわからない。
でも。
「たぶん、来る。いや、来る」
言葉にした瞬間、なんだか腹が決まった気がした。
葵が笑った。「たぶん、が取れたね」
「うるさい」
笑いながら、歩いた。
波豆川沿いの道を、二人で並んで。水はもうきれいに澄んでいた。
耕すべき場所なんて、どこか遠くにあると思っていた。でも案外、泥の中にあったのかもしれない。
秋の風が、背中を押すように吹いた。
