西谷小学校の最後の夏は、どこか祭りの残り香がした。
廃校記念の「里山炭焼き体験」は、波豆川沿いの空き地にテントを張り、三十人ほどの子どもたちと保護者が集まっていた。煌太は前日の偵察で顔を売っておいた地元のNPOスタッフに声をかけ、半ば強引にボランティアとして加わっていた。
炭焼きの煙が白く揺れる午前中は、何事もなく過ぎた。
問題は昼過ぎに起きた。
「あれ……三人、いない」
若い女性スタッフの声が、じわりと場の空気を変えた。タカシ、ユウナ、コウキ。いずれも小学三年生。トイレにも、川辺にもいない。
大人たちの顔が青くなるのを、煌太は見ていた。
「迷子になったんだ」「熱中症じゃないか」「警察に——」
声が重なり、混乱が膨らんでいく。
煌太は黙って雑木林の縁まで歩き、地面を見た。草が、一方向に向かって踏み倒されていた。三人分の足跡。しかも、走った跡だ。
「あの子たちは逃げたんじゃない」
煌太は振り返り、はっきりと言った。
「何かを追いかけたんだ」
誰も答えなかった。
煌太は林の中へ踏み込んだ。コナラとアベマキが混じる雑木林は、昼なお薄暗く、草いきれが喉に絡む。数十メートル入ったところで、煌太は立ち止まった。
遠くで、子どもの笑い声がした。
そして、白い煙が——あの窯から立ち上るものと同じ、細く真っすぐな煙が——木々の奥から昇っているのが見えた。
煌太の胸の中で、何かが燃え上がった。
走れ、と、父の声が言った気がした。
