封筒が届いたのは、二週間後のことだった。
差出人は「田村」とだけ書いてあった。
中を開けると、西谷の森公園の体験プログラムの案内と、小さく折りたたんだメモが入っていた。
メモを広げると、丸っこい字でこう書いてあった。
「また来い。石の投げ方、まだ教えてやれてへん」
それだけだった。
拓海はしばらく、そのメモを見つめた。
なんだよ、と思った。なんだよ、康太。
なのに、口の端がゆるんで、どうしても止まらなかった。
炭を取り出して、窓辺に置いた。夏の光が斜めに差し込んで、真っ黒な炭がほんの少しだけ光った。ガラスみたいに、静かに。
「なくなってないな」
声に出したら、なんだかおかしくなった。
夕飯のあと、テーブルで父さんが新聞を読んでいた。拓海は案内のチラシを持って、隣に座った。
「来年も行く?」
父さんが新聞から目を上げた。
一秒もかからなかった。
「行こか」
それだけだった。でも、その声がまっすぐだった。迷いがなかった。
半年前の父さんなら、こんな声が出たかどうか分からない。
拓海も、何も言えなかったかもしれない。
「うん」と言えた。それで、じゅうぶんだった。
窓の外は、大阪の夜だ。山も川も見えない。西谷の森は、ずっと遠くにある。
でも炭は、窓辺にある。
武庫川のほとりで、康太と並んで石を投げた朝がある。田村さんの「折れへんから」という言葉がある。父さんの赤い目が、ある。
形は変わっても、消えたわけじゃない。
炭になっても、残るものがある。
拓海は窓の向こうの夜空を見た。どこかの向こうに、西谷の山の稜線があるはずだった。夏はまだ、終わっていなかった。
