白い煙は、ためらいなく煌太を招いた。
足元の枯れ枝を踏みながら進むこと三分。コナラの巨木が番人のように立ち並ぶ奥に、それはあった。
高さ一メートルほどの石窯。苔が全体を覆い、いつの時代のものか見当もつかない。しかし、口から細い煙が昇っている。確かに、燃えている。
「いた!」
三人の子どもが窯の前にしゃがみ込み、動かずにいた。リョウ、ハナ、ツバサ。振り返った顔は青白く、目だけが異様に輝いていた。
「ねえ、これ——」
リョウが震える指を窯の内壁へ向けた。
煌太は屈み込んだ。息を呑んだ。
内壁に、炭で文字が刻まれている。縦書きの文字列、数字の羅列、そして——地図だ。波豆川の蛇行、里山の輪郭、炭窯の位置を示すと思われる印が、びっしりと描き込まれていた。
「誰が、こんなものを」
つぶやいた瞬間、後ろで枝が折れた。
吉田翁だった。煌太の行動を察して追ってきたのだろう。しわだらけの顔を覗かせた翁は、窯の内壁を見た次の瞬間、みるみる青ざめた。
「……爺さんの、字じゃ」
翁の声が、葉の隙間から差す光の中で揺れた。
「わしの祖父が、戦前に封じた炭焼きの記録じゃ。この森の炭窯が、全部——ここに書かれとる。なぜ今頃……」
子どもたちが固唾を呑んで聞いている。
煌太は立ち上がり、窯と翁を交互に見た。胸の底で、炭が熾きに変わるような熱さが広がった。
百年、森は黙っていた。
だが今、この夏、三人の子どもが走り込んできた。
偶然か。それとも——森が、誰かに語りかけたのか。
「吉田さん」煌太は静かに、しかし確かな声で言った。「全部、教えてください。この森が隠してきたこと、全部」
風が一瞬止まり、窯の煙がまっすぐ空へ昇った。
