ちまきの手 〜西谷、五月の葉の記憶〜 #18-3

山の方から、乾いた足音が近づいてきた。

振り返ると、日焼けした青年が石垣の角を曲がってくるところだった。作業着の肩に葉くずが一枚ついていた。それが、彼が山から降りてきたことの証明だった。

「孫の大地や」と真弓が言った。顔も上げずに。

大地は蓮を一瞥した。正確に言えば、蓮の隣に置いてあったカメラバッグを。

「撮るより食うほうがええで」

それだけ言って、勝手口から家の中に消えた。

蓮は何か言い返そうとしたが、言葉が出てこなかった。失礼な人だとは思わなかった。ただ、正しいことを短く言われた気がして、少し胸が痛かった。

しばらくして、軒先に煙が上がった。蒸し器にかけたのだろう、青い草の匂いと白い湯気が混ざって、午後の空気にゆっくり溶けていった。

大地が戻ってきた。手のひらに、ちまきを二つ乗せていた。

「どうぞ」

今度は蓮の目を見て言った。短いけれど、先ほどとは違う声だった。

受け取って、ゆっくりと笹を解く。もち米が、白く、小さく、現れた。

一口食べた。

甘さというより、澄んでいる、という感じだった。西谷の水がそうさせるのだと、後になって真弓に聞いた。余計なものが何も入っていない味、とでも言えばいいのか。喉の奥で、静かに、静かに広がっていった。

蓮はふと、大地の指先を見た。

笹の青い汁が、爪の際に染みていた。洗っても落ちない類の色だった。

克哉もこんな色の汚れを、どこかに持っていただろうか。蓮は気づかないふりをして、もう一口、ちまきを食べた。