土を耕す、君と耕す 〜西谷の風と、十八歳の夏〜 #14-2

葵に連れられて着いたのは、波豆川沿いの小さな農地だった。

「西谷あおぞら農園」と書かれた手書きの看板が、支柱にちょこんと刺さっている。

「若い人たちで続けてるんだ。ゆるい感じだけど、楽しいよ」

葵はそう言って、慣れた手つきで作業用の手袋をはめた。

その日の作業は玉ねぎの収穫の残りと、畝の整理だった。蒼はよくわからないまま土を掘り起こし、なんとなく隣の人のまねをしていた。

「動きが死んでる」

ふいに声がした。

振り返ると、日に焼けた顔の男が腕を組んで立っている。同い年か少し上くらいだろうか。

「三田村拓海。農業研修中」と、名乗りはした。でもその目は、蒼を品定めするように見ていた。

「やる気ないならいなくていいよ。ここ、遊びに来る場所じゃないから」

ばっさりだった。

蒼はむっとした。やる気がないんじゃない。やり方がわからないだけだ。でも言葉が出てこなかった。反論する理由も、正直なかった。

夕方、ふたりで農園をあとにした。

波豆川の水面が、西日でオレンジに染まっている。風が草をなでて、さらさらと音を立てていた。

しばらく黙って歩いていると、葵が口を開いた。

「拓海、ああ見えて不器用なだけだから」

「……どのへんが」

「人に頼むの、へたくそなんだよね。本当は来てくれたことが嬉しかったと思う」

蒼は川の流れをながめた。

嬉しかったとは、あの顔からは到底読み取れない。でも葵の言い方には、妙な説得力があった。

「葵はあいつのこと、よく知ってるんだな」

「幼なじみだから」

ただそれだけを言って、葵は少し先を歩き始めた。麦わら帽子の背中が、夕暮れの川沿いに小さく揺れている。

蒼は一歩遅れてついていきながら、今日初めて、ここに来てよかったと思った。