葵に連れられて着いたのは、波豆川沿いの小さな農地だった。
「西谷あおぞら農園」と書かれた手書きの看板が、支柱にちょこんと刺さっている。
「若い人たちで続けてるんだ。ゆるい感じだけど、楽しいよ」
葵はそう言って、慣れた手つきで作業用の手袋をはめた。
その日の作業は玉ねぎの収穫の残りと、畝の整理だった。蒼はよくわからないまま土を掘り起こし、なんとなく隣の人のまねをしていた。
「動きが死んでる」
ふいに声がした。
振り返ると、日に焼けた顔の男が腕を組んで立っている。同い年か少し上くらいだろうか。
「三田村拓海。農業研修中」と、名乗りはした。でもその目は、蒼を品定めするように見ていた。
「やる気ないならいなくていいよ。ここ、遊びに来る場所じゃないから」
ばっさりだった。
蒼はむっとした。やる気がないんじゃない。やり方がわからないだけだ。でも言葉が出てこなかった。反論する理由も、正直なかった。
夕方、ふたりで農園をあとにした。
波豆川の水面が、西日でオレンジに染まっている。風が草をなでて、さらさらと音を立てていた。
しばらく黙って歩いていると、葵が口を開いた。
「拓海、ああ見えて不器用なだけだから」
「……どのへんが」
「人に頼むの、へたくそなんだよね。本当は来てくれたことが嬉しかったと思う」
蒼は川の流れをながめた。
嬉しかったとは、あの顔からは到底読み取れない。でも葵の言い方には、妙な説得力があった。
「葵はあいつのこと、よく知ってるんだな」
「幼なじみだから」
ただそれだけを言って、葵は少し先を歩き始めた。麦わら帽子の背中が、夕暮れの川沿いに小さく揺れている。
蒼は一歩遅れてついていきながら、今日初めて、ここに来てよかったと思った。
