武庫川の支流は、思ったより澄んでいた。
石の上を伝う水が、夏の光をそのまま粉々にして流していくみたいだった。悠斗はひかると並んで、竹の樋を固定する場所を探しながら川べりを歩いた。
流しそうめんの水路を作る、というのは祖父の案だった。今週末、近所の家族連れを呼んで小さな催しをするらしい。竹を割って、節を抜いて、傾斜に合わせて並べていく。昨日覚えたばかりの作業が、もう役に立っていた。
「ここがいいと思います」
ひかるが石の上に立って言った。水面から少し高い場所に、ちょうどよく平らな段差があった。悠斗はうなずいて、竹を当ててみた。
設置を終えると、二人は靴を脱いで川に足を入れた。
冷たかった。予想の、もう少し外側にある冷たさだった。熱を持った足が、音もなく夏をはがされていくような感覚があった。
しばらく、水音だけがあった。
「来年からここ、離れるかもしれん」
ひかるが言った。
「大阪の大学、受けようかと思ってて。でも、まだ決められへんくて」
悠斗は何も言えなかった。言葉が見つからないんじゃなくて、何かを言ってしまうことが怖かった。
水がゆっくり足首を流れていった。
——自分も、似たようなものだ。
学校の実習で失敗したあの日から、料理の前に立つたびに手が一瞬止まる。進めているのか、立ち止まっているのか、自分でもよく分からなかった。
「決めんでもいいんちゃうかな、まだ」
気づいたら、口に出していた。
ひかるは少し黙ってから、「そうやな」とだけ言った。
竹の樋の向こうで、水が白く光っていた。二人の迷いが、清流の底でしずかに並んでいた。
