竹の音がする方へ 〜西谷の夏、清流に流れるもの〜 #19-3

武庫川の支流は、思ったより澄んでいた。

石の上を伝う水が、夏の光をそのまま粉々にして流していくみたいだった。悠斗はひかると並んで、竹の樋を固定する場所を探しながら川べりを歩いた。

流しそうめんの水路を作る、というのは祖父の案だった。今週末、近所の家族連れを呼んで小さな催しをするらしい。竹を割って、節を抜いて、傾斜に合わせて並べていく。昨日覚えたばかりの作業が、もう役に立っていた。

「ここがいいと思います」

ひかるが石の上に立って言った。水面から少し高い場所に、ちょうどよく平らな段差があった。悠斗はうなずいて、竹を当ててみた。

設置を終えると、二人は靴を脱いで川に足を入れた。

冷たかった。予想の、もう少し外側にある冷たさだった。熱を持った足が、音もなく夏をはがされていくような感覚があった。

しばらく、水音だけがあった。

「来年からここ、離れるかもしれん」

ひかるが言った。

「大阪の大学、受けようかと思ってて。でも、まだ決められへんくて」

悠斗は何も言えなかった。言葉が見つからないんじゃなくて、何かを言ってしまうことが怖かった。

水がゆっくり足首を流れていった。

——自分も、似たようなものだ。

学校の実習で失敗したあの日から、料理の前に立つたびに手が一瞬止まる。進めているのか、立ち止まっているのか、自分でもよく分からなかった。

「決めんでもいいんちゃうかな、まだ」

気づいたら、口に出していた。

ひかるは少し黙ってから、「そうやな」とだけ言った。

竹の樋の向こうで、水が白く光っていた。二人の迷いが、清流の底でしずかに並んでいた。