翌朝、おちよ婆さんの台所には人が集まっていた。
田辺のじいさんは八十近いのに背が妙に真っ直ぐで、浜田さんは小学生の子を三人持つ主婦だった。他にも二、三人、桑田には名前もわからぬ顔がそろっていた。
「大阪から来た人や。ちまき、教えてやって」
婆さんがそれだけ言うと、全員がちらと桑田を見て、それからさっさと手を動かし始めた。
まずもち米を洗う。
桑田はボウルに手を突っ込んだ。力を入れたとたん、米がざあっと外へ逃げた。
「あー」
と浜田さんが短く言った。笑いをこらえた声だった。
「そっと。もち米は正直者やから、乱暴にしたらすぐ割れる」
田辺のじいさんが言いながら、桑田の手ごと米の中に沈めた。水の中で、指と指の間を米が滑る。柔らかく、冷たかった。
笹を選ぶ段になると、桑田は大きいものばかりを選んだ。
「なんで全部大きいの取るん」
子どもが言うような率直さで浜田さんが聞いた。
「大きい方が巻きやすいかと」
「逆や」
全員が笑った。声を立てて笑ったのは浜田さんだけだったが、田辺のじいさんの肩が揺れ、婆さんの口の端が動いたのを桑田はまた見た。
縛るのは最も難しかった。いぐさの紐が指に絡まり、ちまきの形が崩れ、婆さんに三度やり直しをさせた。
三度目が終わったとき、婆さんは無言で桑田のちまきを手に取り、ひっくり返して眺めた。
「まあ、食べられる形や」
最大限の褒め言葉だと、桑田にもわかった。
昼前、波豆川の清流から引いた水で炊き上がったちまきが、笹の葉ごと皿に並んだ。
桑田は一口、食べた。
黙った。
もち米の甘さと笹の青い香りが、口の中で静かに交わった。それだけだった。なのに、何かが胸のあたりに落ちてきた。
「……なんですか、これ」
誰も答えなかった。答える必要がなかったからだ。
