ちまきのくせに 〜西谷・初夏 笑いと笹の香りに包まれた七日間〜 #16-2

縁側は南向きで、昼の日差しがじっとりと温かかった。

おちよ婆さんは黙って桑田の靴を外に出し、濡れた雑巾を無言で差し出した。桑田は礼を言いながら泥を拭い、それでも落ち着かないような顔で膝の上に企画書を広げた。

かろうじて回収できた百枚のうち、半分は泥で読めなくなっていた。

「単刀直入にお伺いします」

桑田は顔を上げた。商談の顔だった。

「西谷ちまきのレシピと製法を、一式いただけないでしょうか。弊社で商品化し、全国に広めたいと考えております」

庭の梅の木が、風もないのに葉を揺らした。

婆さんはしばらく桑田を見た。笑いもせず、怒りもせず、ただ見た。

「ほな、まず笹を刈りにいこか」

立ち上がりながら、そう言った。

「は?」

「笹や。ちまきは笹がないと始まらん。そんなことも知らんと、何が全国展開や」

有無を言わせぬ背中だった。桑田は企画書をそっと縁側に置き、おそるおそる立ち上がった。

裏山への細道を登りながら、婆さんは何も説明しなかった。西谷の山は五月の緑に満ちていて、波豆川のせせらぎが遠く続いた。

笹藪の前で、婆さんは小さな鎌を桑田に渡した。

「刈ってみ」

桑田は鎌を持った。正確には、持ったつもりだった。

「あ、痛っ!」

刃に指を挟んでいた。鎌を握る前の話だった。

婆さんは深くため息をついた。怒っているのか呆れているのか、その顔はどちらとも取れたが、口の端がわずかに動いたのを桑田は見逃さなかった。

「あんた、ほんまに食べもんの仕事しとんの」

笹が風に鳴った。まるで笑っているようだった。