ちまきのくせに 〜西谷・初夏 笑いと笹の香りに包まれた七日間〜 #16-7

大阪に戻って三日後、桑田は企画書を提出した。

分厚いバインダーではなかった。A4一枚、たったそれだけだった。

タイトルは「西谷ちまき体験ツアー企画提案」。商品化の文字は、どこにもなかった。

「……これだけか」

上司の森田部長が、眼鏡越しに桑田を見上げた。

「はい、これだけです」

「ちまき汁の話は聞いたぞ。で、その失敗を経ての提案がこれか」

「失敗じゃないんです。あれは……ちまき汁でした」

森田部長は三秒黙ったあと、「意味がわからん」と言って書類をデスクに伏せた。

企画は、その場でほぼ却下された。

それでも桑田は、引き出しの奥に一枚だけ取っておいた。西谷で書き直した手書きのメモだ。端が折れて、笹の葉の匂いがかすかに残っている。

引き出しを開けるたびに、あの台所の湯気が戻ってきた。

月日は流れ、翌年の初夏になった。

ある朝、桑田の机に封筒が届いた。差出人は「西谷・田辺」とあった。

開けると、乾いた笹の葉が一枚、入っていた。

手紙は短かった。

「おちよさん、今年も元気です。あなたのちまき汁の話、今でも笑い話になっとります。今年も来ますか。——田辺」

桑田は、しばらく笹の葉を眺めた。

青みは抜けていたが、あの香りがかすかに残っていた。西谷の風の、あの匂いだった。

その日の昼休み、桑田はスマートフォンを取り出して有給の申請をした。

服装欄に「スーツ以外を検討中」と書いたのは、自分でも少し驚いた。