ちまきのくせに 〜西谷・初夏 笑いと笹の香りに包まれた七日間〜 #16-4

夜が更けるほど、囲炉裏の火は静かになる。

桑田は宿の囲炉裏端に膝をついたまま、ノートパソコンの画面と向き合っていた。「西谷ちまきブランド化戦略・改訂第三稿」。打ち込んでは消し、消しては打つ。

昼に食べたちまきの味が、どうにも邪魔をした。

あの甘さを「六次産業化」という言葉に押し込もうとするたび、指が止まった。「地域ブランドの確立」と書くたび、笹の香りが鼻先をかすめた気がした。

結局、傍らに広げた紙の企画書にも同じことを書き写し、桑田はいつの間にか眠っていた。

目が覚めたのは、かすかな焦げ臭さのせいだ。

企画書の右端が、きれいな弧を描いて黒くなっていた。「差別化ポイント」という見出しから「競合他社との比較分析」という一節が、きれいさっぱり灰になっていた。

「…………」

桑田は三分ほど、その紙を見つめた。

翌朝、台所から味噌汁の匂いがしてきたころ、おちよ婆さんが囲炉裏の間を通りかかった。

桑田の前に広げられた焦げ紙を見て、婆さんは一瞬だけ立ち止まった。

「ちょうどよかったな」

「……は?」

「余分なもんが燃えたんやろ」

それだけ言って、婆さんは台所へ消えた。

桑田は焦げた紙をもう一度見た。

残っているのは冒頭だけだった。「西谷のちまきには、他にない何かがある」。

昨夜、一番最初に書いた一行だけが、無傷で残っていた。

返す言葉が、なかった。