ちまきの手 〜西谷、五月の葉の記憶〜 #18-5

真弓の台所は、五月の匂いがした。

青い笹、水を含んだもち米、束ねられたい草。それらが混ざり合って、空気そのものが柔らかく色づいているようだった。

「まず笹をこうして、器みたいに曲げるんよ」

真弓の手は迷わなかった。何百回、何千回と繰り返してきた手つきで、笹はするりと形になった。

蓮は同じように指を動かしてみた。でも笹は言うことを聞かない。少し力を入れると、弾力が指先に返ってきて、思った角度に収まらなかった。

「難しい」

「最初はみんなそう」

真弓が笑った。

隣では大地が、黙って手を動かしていた。見ていないようで、ちゃんと蓮の手元を見ていた。

もち米をのせる。重さが、手のひらにずっしりと落ちてくる。生きているものの重さみたいだ、と蓮は思った。

い草で締めようとしたとき、角度がずれた。

大地の手が、すっと伸びてきた。

指が、指に触れた。

ほんの一瞬だった。それなのに、その温度だけがやけにはっきりしていた。笹よりも青くて、もち米よりも確かな、何かの温度。

「こっちに、もう少し」

大地は小さく言った。蓮はうなずいた。声が出なかった。

息を止めたまま、い草を引いた。ちまきは、不格好だけれど、ちゃんと形になった。

克哉はきっと、写真が撮りたかったわけじゃない。

この手の感覚を、誰かと持ちたかったんだと思う。もち米の重さ、笹の匂い、指先に残る温度。言葉にならないまま、それでも確かに誰かに渡せるもの。

蓮は手の中のちまきを、しばらく見つめた。

台所の窓の外で、西谷の山が静かに夕暮れに染まっていた。