炭になった夏 〜西谷の森で、ぼくらは燃えた〜 #23-7

封筒が届いたのは、二週間後のことだった。

差出人は「田村」とだけ書いてあった。

中を開けると、西谷の森公園の体験プログラムの案内と、小さく折りたたんだメモが入っていた。

メモを広げると、丸っこい字でこう書いてあった。

「また来い。石の投げ方、まだ教えてやれてへん」

それだけだった。

拓海はしばらく、そのメモを見つめた。

なんだよ、と思った。なんだよ、康太。

なのに、口の端がゆるんで、どうしても止まらなかった。

炭を取り出して、窓辺に置いた。夏の光が斜めに差し込んで、真っ黒な炭がほんの少しだけ光った。ガラスみたいに、静かに。

「なくなってないな」

声に出したら、なんだかおかしくなった。

夕飯のあと、テーブルで父さんが新聞を読んでいた。拓海は案内のチラシを持って、隣に座った。

「来年も行く?」

父さんが新聞から目を上げた。

一秒もかからなかった。

「行こか」

それだけだった。でも、その声がまっすぐだった。迷いがなかった。

半年前の父さんなら、こんな声が出たかどうか分からない。

拓海も、何も言えなかったかもしれない。

「うん」と言えた。それで、じゅうぶんだった。

窓の外は、大阪の夜だ。山も川も見えない。西谷の森は、ずっと遠くにある。

でも炭は、窓辺にある。

武庫川のほとりで、康太と並んで石を投げた朝がある。田村さんの「折れへんから」という言葉がある。父さんの赤い目が、ある。

形は変わっても、消えたわけじゃない。

炭になっても、残るものがある。

拓海は窓の向こうの夜空を見た。どこかの向こうに、西谷の山の稜線があるはずだった。夏はまだ、終わっていなかった。