宿泊棟の奥から、父さんたちの笑い声が聞こえてきた。
缶ビールが開く音、低い声が重なり合う声。大人たちが何かを話している。たぶん仕事のこととか、子どものこととか。でも拓海には、よくわからなかった。
康太が縁側にするっと出た。拓海もあとに続いた。
夜の西谷は、静かだった。虫の声が、遠くからひとつひとつ聞こえてくる。大阪ではぜんぶ混ざってひとつの騒音になるのに、ここでは分けて聞こえた。
「星、めっちゃある」
拓海は空を見上げながら言った。
「都会じゃ、こんなに見えへん」
康太は返事をしなかった。ただ、同じように空を見上げていた。
しばらくして、康太がぽつりと言った。
「おれ、ここ好きやねん。うるさくなくて」
「家が?」
拓海は思わず聞いた。
康太は少し黙った。草の匂いがした。遠くで、川の音がしていた。
「まあ」
それだけだった。
拓海もそれ以上は聞かなかった。
「うちも」
と、それだけ言った。
お互い、顔は見なかった。空を見たまま、二人はしばらく黙っていた。
聞かなくていいと思った。説明しなくていいと思った。うるさい、という言葉の中に、何がつまっているか。拓海にはなんとなくわかる気がした。わかる気がしたから、それ以上は要らなかった。
奥でまた父さんたちが笑った。何がおかしいのか、拓海にはわからなかった。でも、いい声だと思った。父さんがああして笑うのを、最近聞いていなかった。
星がひとつ、すうっと流れた。
「あ」と拓海が言ったとき、康太も同じ方を見ていた。
何も言わなかった。でも、たしかに同じものを見ていた。
