炭になった夏 〜西谷の森で、ぼくらは燃えた〜 #23-4

宿泊棟の奥から、父さんたちの笑い声が聞こえてきた。

缶ビールが開く音、低い声が重なり合う声。大人たちが何かを話している。たぶん仕事のこととか、子どものこととか。でも拓海には、よくわからなかった。

康太が縁側にするっと出た。拓海もあとに続いた。

夜の西谷は、静かだった。虫の声が、遠くからひとつひとつ聞こえてくる。大阪ではぜんぶ混ざってひとつの騒音になるのに、ここでは分けて聞こえた。

「星、めっちゃある」

拓海は空を見上げながら言った。

「都会じゃ、こんなに見えへん」

康太は返事をしなかった。ただ、同じように空を見上げていた。

しばらくして、康太がぽつりと言った。

「おれ、ここ好きやねん。うるさくなくて」

「家が?」

拓海は思わず聞いた。

康太は少し黙った。草の匂いがした。遠くで、川の音がしていた。

「まあ」

それだけだった。

拓海もそれ以上は聞かなかった。

「うちも」

と、それだけ言った。

お互い、顔は見なかった。空を見たまま、二人はしばらく黙っていた。

聞かなくていいと思った。説明しなくていいと思った。うるさい、という言葉の中に、何がつまっているか。拓海にはなんとなくわかる気がした。わかる気がしたから、それ以上は要らなかった。

奥でまた父さんたちが笑った。何がおかしいのか、拓海にはわからなかった。でも、いい声だと思った。父さんがああして笑うのを、最近聞いていなかった。

星がひとつ、すうっと流れた。

「あ」と拓海が言ったとき、康太も同じ方を見ていた。

何も言わなかった。でも、たしかに同じものを見ていた。