朝の空気が、肌にひんやりと触れた。
西谷の山の稜線が、薄い青に染まっていた。鳥の声が、どこか遠いところから届いてくる。
窯の前に、みんなが集まった。
田村さんが静かに窯の口を開けると、黒いものたちが姿を現した。昨日まで木だったものが、形を変えてそこにあった。
「これが昨日の木や」
田村さんが言った。
「形は変わったけど、ちゃんと残っとる」
拓海は、その言葉を聞いた瞬間、胸の中で何かが止まった気がした。
変わっても、残る。
消えてしまったわけじゃない。ただ、変わっただけ。
康太が窯の前にしゃがみこんで、炭を一本そっと手に取った。しばらくながめてから、振り返って拓海に差し出した。
「持ってき。折れへんから」
拓海は受け取った。
思ったより、軽かった。
真っ黒で、触れると指に墨がつく。でもしっかりと、形を保っていた。昨日の枝が、こんなふうになったんだと思うと、なんだか不思議だった。
「ありがとう」
と言ったら、康太はもう別の方を見ていた。照れてるのかもしれなかった。
少し離れたところに、父さんが立っていた。
腕を組んで、こっちを見ていた。目を細めて、ただじっと。
笑ってはいなかった。でも、怒ってもいなかった。なんていうか、安心したみたいな顔だった。拓海は最近、父さんのそんな顔を見ていなかった。
炭を、ぎゅっと握った。
軽いのに、ちゃんとそこにあった。
