窯が、口を開けた。
夜明けの光の中、煌太は息を止めた。まるで地の底から引き抜かれた黒い宝石のように、炭が並んでいた。艶やかに、静かに、吸い込まれるような黒さで。
焼けた土の匂い。波豆川の瀬音。鳥の声が一つ、山の奥で鳴いた。
煌太は一本手に取った。ずしりと重い。その重さが、三日間の火の重さだと思った。
「ハナ」
少女が顔を上げた。目の下に泥の跡が残っていた。
「これがお前たちの西谷の夏だ」
煌太は炭をハナの手に置いた。「炭になっても、熱は消えない。この夏も——消えない」
ハナは何も言わなかった。ただ両手で炭を包み、ぎゅっと胸に押し当てた。リョウが鼻をすすった。ツバサが空を見上げた。誰も笑っていないのに、全員の顔が輝いて見えた。
吉田翁が近づいてきた。しわだらけの手の中に、古い鍵が一つ光っていた。
「煌太さん」
翁の目が、濡れていた。「来年も来い。この子らに、火を継がせてくれ」
煌太は鍵を受け取った。冷たくて、重かった。逃げた男に、これほどの重さを渡していいのか。そう思った瞬間、リョウが叫んだ。
「来年も来るんでしょう! 来なかったら——絶対に許さないからな!」
泣き声まじりの怒号だった。煌太は笑った。腹の底から、火が湧くように笑った。
「ああ。来る」
篠山街道を下りながら、煌太は波豆川の光を見た。水面が白く砕けて、夏の朝をはじいていた。
胸の中に、黒い炭が一本、まだ熱を持っていた。
教壇に、もう一度立つ。
その決意は、炭のように——静かに、深く、燃えていた。
