ホタルの灯る夜に 〜六月の西谷、あぜ道に宿る光〜 #15-6

夕暮れどき、庄平に促されて仏間へ通された。

線香の残り香が、静かに漂っていた。

「これを、渡しそびれとった」

庄平は仏壇の引き出しから、一通の封筒を取り出した。

誠司の手が止まった。

表書きには、見覚えのある文字が並んでいた。

——桐島誠司様へ。

村瀬の字だった。

「二年前、西谷に来たとき、ここへ置いていった。もし桐島さんが来ることがあれば、渡してほしいと」

誠司は封筒を受け取った。紙が、わずかに震えた。自分の手が震えているのだと、少し遅れて気づいた。

封を切った。

便箋は一枚。文章は短かった。

——西谷のホタルを、あなたと見たかった。いつか一緒に来てください。

それだけだった。

誠司は声を出せなかった。

村瀬はすでに知っていたのだ。この地の静けさを、波豆川の水音を、あぜ道の草いきれを。そのすべてを確かめた上で、誠司を誘うつもりでいた。

あいつは待っていた。

俺が来ることを。

「村瀬さんは、あんたのことが心配やった」

庄平が、ぽつりと言った。

「心配、ですか」

「刑事を辞めたあと、どこへ行くか。何を支えにするか。そう言うとった」

誠司は便箋から目を離せなかった。

村瀬が死んだのは、自分のせいだと思い続けてきた。それは変わらない。だが——あいつはそれでも、俺に西谷を見せたかった。ホタルの光の下で、もう一度、隣に立ちたかった。

そういうことだったのか。

縁側の向こう、山の稜線が藍色に沈んでいく。

どこか遠くで、川の音がした。

誠司はゆっくりと、便箋を折り直した。