ちまきのくせに 〜西谷・初夏 笑いと笹の香りに包まれた七日間〜 #16-3

翌朝、おちよ婆さんの台所には人が集まっていた。

田辺のじいさんは八十近いのに背が妙に真っ直ぐで、浜田さんは小学生の子を三人持つ主婦だった。他にも二、三人、桑田には名前もわからぬ顔がそろっていた。

「大阪から来た人や。ちまき、教えてやって」

婆さんがそれだけ言うと、全員がちらと桑田を見て、それからさっさと手を動かし始めた。

まずもち米を洗う。

桑田はボウルに手を突っ込んだ。力を入れたとたん、米がざあっと外へ逃げた。

「あー」

と浜田さんが短く言った。笑いをこらえた声だった。

「そっと。もち米は正直者やから、乱暴にしたらすぐ割れる」

田辺のじいさんが言いながら、桑田の手ごと米の中に沈めた。水の中で、指と指の間を米が滑る。柔らかく、冷たかった。

笹を選ぶ段になると、桑田は大きいものばかりを選んだ。

「なんで全部大きいの取るん」

子どもが言うような率直さで浜田さんが聞いた。

「大きい方が巻きやすいかと」

「逆や」

全員が笑った。声を立てて笑ったのは浜田さんだけだったが、田辺のじいさんの肩が揺れ、婆さんの口の端が動いたのを桑田はまた見た。

縛るのは最も難しかった。いぐさの紐が指に絡まり、ちまきの形が崩れ、婆さんに三度やり直しをさせた。

三度目が終わったとき、婆さんは無言で桑田のちまきを手に取り、ひっくり返して眺めた。

「まあ、食べられる形や」

最大限の褒め言葉だと、桑田にもわかった。

昼前、波豆川の清流から引いた水で炊き上がったちまきが、笹の葉ごと皿に並んだ。

桑田は一口、食べた。

黙った。

もち米の甘さと笹の青い香りが、口の中で静かに交わった。それだけだった。なのに、何かが胸のあたりに落ちてきた。

「……なんですか、これ」

誰も答えなかった。答える必要がなかったからだ。