真弓の台所は、五月の匂いがした。
青い笹、水を含んだもち米、束ねられたい草。それらが混ざり合って、空気そのものが柔らかく色づいているようだった。
「まず笹をこうして、器みたいに曲げるんよ」
真弓の手は迷わなかった。何百回、何千回と繰り返してきた手つきで、笹はするりと形になった。
蓮は同じように指を動かしてみた。でも笹は言うことを聞かない。少し力を入れると、弾力が指先に返ってきて、思った角度に収まらなかった。
「難しい」
「最初はみんなそう」
真弓が笑った。
隣では大地が、黙って手を動かしていた。見ていないようで、ちゃんと蓮の手元を見ていた。
もち米をのせる。重さが、手のひらにずっしりと落ちてくる。生きているものの重さみたいだ、と蓮は思った。
い草で締めようとしたとき、角度がずれた。
大地の手が、すっと伸びてきた。
指が、指に触れた。
ほんの一瞬だった。それなのに、その温度だけがやけにはっきりしていた。笹よりも青くて、もち米よりも確かな、何かの温度。
「こっちに、もう少し」
大地は小さく言った。蓮はうなずいた。声が出なかった。
息を止めたまま、い草を引いた。ちまきは、不格好だけれど、ちゃんと形になった。
克哉はきっと、写真が撮りたかったわけじゃない。
この手の感覚を、誰かと持ちたかったんだと思う。もち米の重さ、笹の匂い、指先に残る温度。言葉にならないまま、それでも確かに誰かに渡せるもの。
蓮は手の中のちまきを、しばらく見つめた。
台所の窓の外で、西谷の山が静かに夕暮れに染まっていた。
