三日目の朝、私は友人に教わった道を歩いて、西谷ふれあい夢プラザへ出かけた。地元の野菜が並ぶ直売所があると聞いていたのである。
店先では、小柄な老婦人が大根を束ねていた。ヨネさんと名乗り、私が東京から来たと聞くと、目を細めた。
「まあ、遠いとこから。うちの大根、持って帰り」
黒枝豆や、艶のいいさつまいもを袋に詰めてもらううち、私は思い切って尋ねた。
「あの、大原野の方の田んぼに、古い案山子が立っていますね」
「ああ、あの子かいな」
ヨネさんは手を止め、懐かしそうに笑った。
「あれは、うちの亡くなった爺さんが作ったんや。三十年も前になるかなあ。雀よけにて、古い半纏を着せてな。毎年、田植えが済んだら引っ張り出して立ててやるんよ」
「毎年、ですか」
「そうや。稲刈りが済んでも、下ろしてやらんの。冬の間も立たせとく。爺さんが言うてたわ、田ぁは一年中、人の目がないと寂しがるてな」
私は、袋を抱えたまま、しばらく動けなかった。
爺さんの名は、ヨネさんが口にした一度きりで、私はそれ以上を尋ねなかった。尋ねずとも、田に残る手の跡は、十分に語っているように思われた。
帰り道、刈り跡の棚田を見下ろす場所で立ち止まった。案山子は遠くに小さく、しかし確かに立っていた。