清流の、きみへ 〜西谷、八月の川べりで〜 #26-7

九月になっても、波豆川は変わらず流れていた。

宮田さんから電話があったのは、七回忌を終えて宝塚の自室に戻って十日ほどしてからだった。

「誠一くん、来月の観察会、のぞいてみる気はない? 先生も来はるし」

最後の一言は、余計だったかもしれない。けれど宮田さんはきっと、わかって言っていた。

誠一は「予定を確認します」と答えた。予定などなかった。

当日、誠一は少し遅れてバスを降りた。川沿いの道を歩いていくと、子どもたちの声が聞こえてきた。

浅瀬に膝まで入って、網を持って笑っている。西谷の秋の光の中で、子どもたちはよく動いた。

陽子は岸に立って、何かを説明していた。

「この川には、昔から同じ水が流れているわけじゃないの。でも川は、ここにある」

子どもたちは半分、聞いていなかった。それでも陽子は続けた。

そのとき、陽子がふっと顔を上げた。

誠一と目が合った。

陽子は、静かに微笑んだ。

ただそれだけのことだった。それだけのことが、誠一の胸のどこかをやわらかく押した。

観察会が終わり、子どもたちが引率の保護者と帰っていくのを見送って、二人は自然に並んで歩き始めた。

川の音だけがあった。

誠一は何も言わなかった。陽子も何も言わなかった。

波豆川が、ゆっくりと光を返していた。

八月、鳥居橋のそばで聞けなかった言葉は、まだ川底にあるのかもしれない。けれど今は、それでよかった。

川は覚えている、と誠一は思った。

流れながら、ちゃんと覚えている。