朝の光が、波豆川の水面でばらばらに砕けていた。
砕けた光の粒が、川底の石の上を泳いでいた。小魚たちは光とともに揺れ、まるで光そのものが生きているようだった。
「おとうさん、見て。いっぱいおる」
蒼がズボンの裾を膝までたくし上げ、川に入っていた。冷たい、と言いながら、もう次の石をひっくり返していた。石の裏に貼りついた小さな虫を見つけるたびに声を上げ、また次の石へ向かった。
光太郎は岸に立ち、その背中を見ていた。
川は透きとおっていた。底まで透きとおっていた。東屋のあたりから上流を見れば、山の緑が川面に映り、水の中にもう一つの西谷があるようだった。
「あんた、義雄さんの息子さんか」
振り返ると、麦わら帽子の老人が土手に立っていた。日焼けした顔に、深い皺が刻まれていた。
「はい。篠原です」
「昨日の法要で見かけてな。儂は徳いうもんや」
徳さんは川を見た。目を細めた。
「この川はな、昔からちゃんと生きとる」
ちゃんと生きとる、と光太郎は心の中で繰り返した。
「義雄さんもよう来とったで。一人で、ぼーっと水を見てな」
光太郎の胸に、小さな何かが刺さった。棘というほど鋭くない。でも確かに、そこにあった。
父が一人で川を見ていた。その時、何を考えていたのか。なぜ一人で来たのか。
聞けばよかった、と思うより先に、聞こうとしたことさえなかったと気づいた。
「おとうさん、カニおった!」
蒼の声が川の上を走った。
光太郎は息子に向かって笑い返した。笑いながら、胸の棘をそのままにしておくことにした。
波豆川は、父の時代と同じ音を立てて、今日も流れていた。
