蛍博士のドタバタ大作戦 〜西谷の夏、光る虫と踊る日々〜 #7-2

田中光男は、波豆川の岸辺で、真剣に水をすくっていた。

「pH測定、よし。溶存酸素量も……」

夢中になって測定器をのぞき込んでいたら、足を滑らせて、ざぶん。

「うわあああああ!」

六月の川の水は、思ったより冷たくて、光男はあわあわと手足をばたつかせながら、なんとか岸に這い上がった。

「あらあら、どうしたんや」

振り返ると、川沿いの畑でトマトの手入れをしていたおじいちゃんが、心配そうに駆け寄ってきた。

「すみません、水質調査をしていて」

「びしょ濡れやがな。うちで着替えしていき」

おじいちゃんの家は、昔ながらの農家で、縁側に座らせてもらって着替えを待っていると、お茶とおせんべいを出してくれた。

「先生は蛍の研究してはるんやろう」

「はい。でも、なかなか難しくて」

「むかしなあ、この波豆川には蛍がようけおったんや」

おじいちゃんの目が、遠くを見るような優しさになった。

「夏の夜になると、川面が星空みたいになってな。子どもの頃は、蛍を追いかけて夜遅くまで遊んでたもんや」

「星空みたいに」

光男の胸が、ぽっと温かくなった。

「そんな光景が、本当にあったんですね」

「また戻ってくるかなあ」

「絶対に戻します」

光男は、濡れたカバンから、びしょびしょになったノートを取り出した。

「おじいちゃんの話、詳しく聞かせてください。川面の星空を、もう一度見せてもらいます」

おじいちゃんの顔に、嬉しそうな笑顔が広がった。

夕日が西谷の山々を染める中、光男の本格的な蛍復活作戦が、ついに始まろうとしていた。