君の笑い声が、ここにある 〜西谷の夏、流れる水のそばで〜 #20-3

午後の日差しが、庭の草をじりじりと照らしていた。

棚田から流れてくる風だけが、かろうじて涼しい。

すいか割りが始まると聞いて、子どもたちがいちばん先に庭へ飛び出した。

悠は気づいたら棒を握らされていた。

「え、俺が最初ですか」

「観光客は一番手って決まってますから」

中村さんがにこにこしながらそう言う。どこにも決まっていない気がしたが、反論できる雰囲気でもなかった。

目隠しをすると、世界が暗くなった。

「三歩前」

健太の声。

「もう少し右」

次の声で、悠の足が止まった。

朱音だ。

「そのまままっすぐ」

声が近い。棒を持つ手に、妙な力が入った。

振り下ろす。

空を切った。

笑い声が弾けた。

「惜しい! もう半歩前」

朱音の声に笑いが混じっている。悠は恥ずかしいより先に、おかしくなった。こんなことで、笑っている。

もう一度振り下ろすと、ぱん、と乾いた音がした。

歓声が上がった。

目隠しを外すと、すいかが二つに割れていた。真っ赤な断面が、夏の光を照り返している。

縁側に並んで座り、切り分けられたすいかを受け取った。

冷たくて、甘かった。

しばらく、誰も話さなかった。

棚田の水音だけが、遠くから聞こえてくる。

「西谷の空気って、なんか時間がゆっくりな気がする」

朱音がぽつりと言った。

「そうですね」と悠は答えた。ありきたりな返しだと思いながらも、他の言葉が出てこなかった。

本当にそうだったから。

朱音の横顔が、傾いた西日の中にある。

その輪郭を見た瞬間、三年前の記憶が音もなく浮かんだ。

展示会の喧騒。人混みの向こう。消えていった後ろ姿。

——あのとき、もし追いかけていたら。

すいかの赤が、視界の端で揺れた。