ちまきの手 〜西谷、五月の里山にて〜 #17-7

一年が、過ぎた。

五月の声を聞くころ、渉はまた西谷へ向かっていた。去年と同じ道を、去年より少しだけ速い足で。

ちまき教室の会場は、波豆の集落はずれにある古い農家の広間だった。縁側から田の風が通り抜け、青い笹の匂いが満ちていた。

受付で名前を告げると、世話役の老婦人が顔をほころばせた。

「去年も来てくれたね。あの子に聞いとったよ」

あの子、という言葉に、渉は少し息をつめた。

灯の姿は、会場になかった。

理由は聞かなかった。笹を受け取り、祖母の走り書きのメモを胸ポケットから出した。何度も折り返したせいで、紙の角が丸くなっていた。

丁寧に、折っていった。

うまくはなかった。それでも、去年より手が迷わなかった。寸法どおりに引く線と、笹を折る手とが、どこかで似ていると思った。形のないものを、形にしようとしている。

教室を終えて外へ出ると、五月の光が眩しかった。

宿への道を歩いていると、畦道の先に人影が見えた。麦わら帽子。田に入り、腰をかがめて何かを確かめている。

灯だった。

渉は足を止めた。

気配を感じたのか、灯がゆっくり顔を上げた。帽子の下の目が、渉を見た。

それだけだった。

灯は小さく、静かに頷いた。

渉も、頷いた。

言葉は、何も要らなかった。彼女はここに根を張ることを選んだ。渉はそれを知りに、ここへ来た。それだけのことが、胸の奥でひっそりと落ち着いた。

風が田を渡り、笹の束が腕の中で揺れた。

来年も、笹は青い。そのとき自分がどこにいるかは、まだわからない。ただ、この道を知っている。それだけでいいと、渉は思った。