竹の中を、そうめんが走る 〜西谷の夏、四十二歳の見習い〜 #21-6

朝から三枝は張り切りすぎていた。

祭りの準備が始まった農業公園の広場に、草刈りをしたばかりの青い匂いが漂っていた。テントが立ち、子どもたちが走り回り、スピーカーから音頭の練習が流れていた。

三枝は前夜から眠れなかった。眠れないときの人間がやりがちなこと、つまり「念のため多めに用意する」という過ちを、彼は完璧に実行した。

青じそを、十倍刻んだ。

気づいたのは、もう遅かった。

ペーストを仕上げた瞬間、ボウルの中に広がったのは薬味ではなく、ほとんど森だった。深緑の、鬱蒼とした、生態系を持った何かだった。

「これ、草やな」

ガンさんが一言で言い表した。間違ってはいなかった。

子どもたちはそうめんに添えたそのペーストを見て、順番に顔をしかめた。一人が「くさい」と言い、その言葉は夏の空気の中を、思ったより遠くまで飛んでいった。

ひなたは三枝の隣に立って、何も言わなかった。その沈黙は、やさしくも、少し痛かった。

途方に暮れた三枝が竹の流し台の脇に座っていると、おトメさんがやってきた。麦わら帽子をかぶり、うちわを持っていた。

「あんた、なんで料理人になったん?」

三枝は答えようとした。「料理が好きだから」と言いかけて、止まった。

本当にそうだろうか。

その言葉が、口の手前で溶けた。二十年間、誰にも、自分にも、まともに聞いたことのない問いだった。評価のため、完璧のため、何かを証明するため。それ以外の理由を、彼はどこかに置き忘れてきた。

遠くでまた音頭が流れ始めた。

夏の西谷は、何も待ってくれなかった。