法要が終わると、西谷の空は嘘みたいに青かった。
波豆川のせせらぎが、遠くから届いてくる。
「蓮司さん!」
声が聞こえた。振り向くと、ケンタが畦道を走ってくる。後ろにユイとタクがついてきていた。
「もう帰るん?」
「ああ。また来るよ」
「いつ?」
即答できなかった。三年間、そういう約束を自分に禁じてきた気がする。約束して、守れなかったら——そう思うと、言葉が喉の手前で止まっていた。
ケンタが言った。
「石積みのコツ、まだ全部教えてもらってへん」
その言い方が、妙におかしかった。笑いが出た。久しぶりの笑いだった。
「わかった。また夏に来る」
「約束な」
「約束」
ケンタは満足そうに頷いた。
子どもたちが坂を駆け下りていく背中を見送ってから、蓮司はリュックを開けた。祖父のノートを確かめる。表紙の角が擦り切れている。その感触が、手のひらに馴染んでいた。
ポケットの中のスマートフォンに、指が触れた。
着信履歴の中に、同僚の名前がある。三年間、ずっと無視し続けてきた名前だった。
蓮司は画面を見つめた。川の音が、背中から聞こえてくる。
——間に合わなかった、で終わらせなくていい。
昨日、ケンタの手が背中に触れた瞬間に感じたことを、今もまだ覚えていた。
発信ボタンを押した。
呼び出し音が二回鳴って、相手が出た。
「……桐島?」
「俺です。遅くなって、すみませんでした」
それだけで、声が詰まった。向こうも、しばらく黙っていた。
川面が光っている。
蓮司はゆっくりと山を下りていった。
