夏の川は、嘘をつかない 〜西谷の水辺に消えた記憶と、子どもたちの声〜 #22-6

午後の空が、急に変わった。

入道雲の向こうに黒い塊が押し寄せてきたと思ったら、風が変わり、波豆川の水面が細かく波立った。

「やばい、来るで」

子どもたちの誰かが叫んだ。三人が川の中で凍りついた。

「全員、岸に上がれ!」

蓮司は声を張った。教師の声だった。三年ぶりに出た、あの声だった。

雨は一気に落ちてきた。川の色が変わるのは早かった。透き通っていた水が、みるみる濁り始める。流れが、太くなる。

子どもたちが次々と岸に飛び上がる。蓮司も上がろうとした瞬間、後ろでケンタが声を上げた。

「あっ——」

振り向くと、ケンタが流れに足をとられてよろめいていた。蓮司は腕を伸ばし、ケンタの腕をつかんだ。引き上げる。泥だらけの足が岸に上がった。

「大丈夫か!」

「うん……ありがとう」

ケンタの声は少し震えていた。蓮司の手も、震えていた。

——あのときも、俺は間に合わなかった。

三年前の教室。廊下の端で膝を抱えていた子どもの姿。声をかけようとして、足が止まった、あの朝。

間に合わなかった。ずっと、そう思ってきた。

蓮司は岸にしゃがみ込んだ。川の水で濡れたままの手を、ただ眺めた。雨音が耳の奥で大きくなっていく。

小さな手が、背中にそっと触れた。

ケンタだった。何も言わない。ただ、置いただけだった。

その重さが、妙にリアルだった。

子どもの手の、この重さ。

蓮司は目を閉じた。雨が川を叩く音が、遠くなった気がした。