炭になった夏 〜西谷の森で、ぼくらは燃えた〜 #23-6

帰りの車は、静かだった。

武庫川沿いの道を、父さんが黙って運転していた。ラジオもついていなかった。窓の外を、山が流れていった。西谷の緑が、少しずつ遠くなっていく。

拓海は膝の上で、炭をにぎっていた。

康太からもらった、あの炭だ。シャツの端でくるんで、大事に持っていた。

武田尾のあたりに差しかかったとき、父さんが口を開いた。

「来て良かったな」

ぽつり、と言った。

「うん」

拓海が返すと、しばらくまた黙った。

でも今度の沈黙は、前とちがった。重くなかった。

信号が赤になって、車が止まった。なんとなくルームミラーを見たら、父さんの目が赤かった。

泣いているのか、昨日の煙のせいか、拓海には分からなかった。

父さんは何も言わなかった。拓海も、何も言わなかった。

ただ、炭を少し強くにぎった。軽いのに、ちゃんとそこにある。

信号が青になって、車は走りだした。

そのとき、ふと思った。

康太の連絡先、交換してなかった。

あたりまえのように一緒にいて、あたりまえのように別れてきた。名前も知ってる、顔も覚えてる。なのに、もう連絡できない。

胸の奥が、すこしだけ痛くなった。

でも、炭は手の中にある。

あの窯のそば、朝の青い空気の中で、康太が「折れへんから」って言いながら差し出してくれた、あの炭が。

なくなったわけじゃない。

形が変わっても、残るものがある。田村さんが言ってた。

拓海は窓に頭をもたせかけた。山の稜線が、まだ遠くに見えた。西谷の森が、夏の光の中にしずかに立っていた。