七日目の朝、私は荷をまとめて、案山子のところへ挨拶に行った。
霜が降りて、刈り跡の田が白く光っていた。案山子は昨夜と同じ姿勢で、同じ場所に立っている。声は、もう聞こえなかった。夢だったのだ、と言われれば、そうかもしれない。
それでも私は、鞄から古い麦わら帽子を取り出した。友人の家の土間に掛かっていたものを、一つ借りてきたのである。案山子の頭の古い帽子の上に、そっと重ねてやった。
「冬は冷えるだろう」
返事はなかった。風が吹いて、半纏の袖が一度だけ、軽く揺れた。
「来年の田植えの頃に、また来る。蛍も見たい」
それだけ言って、私は畦道を歩き出した。
ヨネさんの笑顔と、友人の家の太い梁と、霧の夜の川の音とが、順に胸の中を通り過ぎた。たった一週間のことであったのに、ずいぶん長く滞在したような気がした。
バス停で待つ間、鞄の中の大根の重みが、妙に心地よかった。帰ったら、止まっていた原稿に向き合おうと思った。立っているだけでよい、と案山子は言った。ならば、まず机の前に座ることから始めればよいのである。
やって来た田園バスに乗り込み、窓から振り返ると、遠くの棚田に小さな影が見えた。私は、小さく手を挙げた。