引き戸をくぐると、板敷きの間に折り畳みテーブルが並んでいた。
すでに五、六人が腰を落ち着けており、笹の葉を手に思い思いの顔をしている。渉が入ると、視線がいくつか集まった。よそ者の来た空気を、渉は背中で感じた。
「そこ、空いてるよ」
声のした方を向くと、窓際の席に女性が一人、麦わら帽子を膝の上に置いて座っていた。
日焼けした頬。飾り気のない手。目が合うと、眉を少し動かして、椅子の隣を示した。それだけだった。
渉は礼を言って、腰を下ろした。
教室が始まると、老婆——おそらくここの主人だろう——が手本を見せた。笹の葉二枚を重ね、くるりと折って筒にする。もち米を詰め、さらに葉で包み、藺草で結わえる。手順はそれだけだった。
が、渉の手は言うことを聞かなかった。
筒がすぐ開く。米がこぼれる。紐を引くと葉が破れた。
CADで〇・一ミリ単位の線を引く指が、これほど役に立たないとは思わなかった。
隣から、小さなため息が聞こえた気がした。渉が横を見ると、女性はすでに二つ目を仕上げているところだった。
「貸して」
一言だけ言って、彼女は渉の手元に手を伸ばした。
その指が、渉の指にそっと触れた。笹を正しい角度に整えながら、力加減を示すように、ゆっくりと。
「こう、押さえとく。ここを折るとき、緩めたらあかん」
渉は息を止めた。
手の温度が、伝わってくる。農作業で鍛えられた、実直な手の温度が。
「……朝倉 灯です。田んぼの合間に毎年来てる」
名乗って、彼女はさっと手を引いた。
「篠田 渉。建築士です」
「建築士でも、こういうのは苦手なんやね」
灯は笑わなかった。ただ、目だけが少し、やわらかくなった。
窓の外、田植えを終えた水田が光を受けて白く光っていた。山は青く、風は静かだった。
渉は、うまく返事ができなかった。
