宝塚駅の北口を出ると、阪急田園バスが停まっていた。「西谷行き」の表示を確認して、田中美咲は列の後ろに並んだ。三年ぶりだ、と思った。バッグの持ち手を握り直す。心拍が少し早い。
バスは市街地を抜け、ゆっくりと山のほうへ向かっていく。窓の外で風景が変わっていった。ビルが消えて住宅地になり、やがて刈り取られた田んぼと山が広がった。わらが丸く束ねて置かれている。山の斜面は赤や黄に染まりはじめていた。十月の西谷は、美咲が覚えている通りの姿だった。
四十分の車内で、美咲はずっと窓の外を見ていた。スマホには三日前のLINEがそのまま残っている。
「お母さんが入院した。大したことじゃないが、一回帰ってこれるか」
送り主は父だった。父からLINEが来たのは初めてのことだった。三年前に口論になって以来、ひとことも言葉を交わしていなかった。どちらが謝るでもなく、ただ時間だけが流れていた。
「次は終点、西谷ふれあい夢プラザ前でございます」
アナウンスが流れてドアが開く。秋風が入り込んだ。土と草の混じった、懐かしい匂いがした。美咲は大きく息を吸い込んで、荷物を持って立ち上がった。父に最初にかける言葉を、まだ決めていなかった。