「せっかくやから、ダリア園行かへん?」
翌朝、隣の山田洋子さんが庭越しに声をかけてきた。七十代の小柄な女性で、幼い頃から美咲のことを知っている。
「ええんですか、一緒に行っても」
「あんたが来たって聞いてな、誘おうと思ってたんよ」
佐曽利のダリア園は、車で十分ほどの距離だった。畑の斜面に、赤や白や黄色の大輪が列をなして咲いていた。球状のもの、花びらが細いもの、花びらがとがったもの、同じ「ダリア」でもまるで別の植物のように多様だった。空は高く晴れていて、花の色がよく映えた。
「きれいやなあ」と美咲は思わず声に出した。
「毎年来るんやけど、やっぱりええわ。ところで、あんたのお父さんも、ここに一人で来たことあるんよ」
美咲は立ち止まった。「父が?」
「そうそう。お母さんが入院してすぐの頃、朝早う来て、写真撮っとったわ。一人でね。なんとなく、寂しそうやったわ」
風が吹いてダリアが揺れた。あの無口な父が、一人でこの丘まで来ていた。何を思いながら、シャッターを押したのだろう。美咲は何も言えなくて、また歩きはじめた。色とりどりの花が、風の中でゆっくりとゆれていた。青空の下で、ダリアたちは静かに咲いていた。
