夕暮れ時、散歩に出た美咲は波豆川のほとりで父を見つけた。
川はゆっくりと流れていた。岸辺の草は枯れかかって、夕日に染まった水面がきらきらと光っていた。父は石の上に腰を下ろして、川の流れをただ眺めていた。その姿は昔と変わらないようで、けれど確かに小さくなっていた。
「ここ、よく来るの?」
父はゆっくり振り向いた。「たまにな」
美咲は父の隣に腰を下ろした。二人とも、川を見たまましばらく黙っていた。子どもの頃、この川で何度も遊んだ。網で小魚を追いかけて、転んで服をぬらした。父はいつもそのそばに立って、黙って見ていた。叱ることも褒めることも、あまりない人だった。それが子どもの頃は物足りなかったが、今はそれが父の愛し方だったのかもしれないと思う。
「きれいやな、ここ」
「ああ」
父の声は低かった。美咲は横顔を盗み見る。七十近い父の顔には皺が増えていた。三年分の時間が確かにそこにある。
「お母さん、ほんまに大丈夫そうやったわ」
「ああ、大丈夫や。ほんまに心配かけたな」
会話はそれだけだった。けれど二人は、しばらくそのまま川のそばにいた。波豆川の水の音が、夕暮れの中をゆっくりと流れていった。
