翌朝、父が「手伝えるか」と言って美咲を畑に連れていった。
黒枝豆の収穫は、まず株ごと引き抜いて、それから豆のさやをひとつひとつ手でもぎ取る。父が手順を教えてくれた。「こうやって、ここをつかんで。引っ張りすぎたらあかん」
美咲は父の横に座って、同じように手を動かした。しゃがんで豆をもぐ父の横顔が、子どもの頃の記憶と重なる。あの頃もこうして並んで座ったことがあった気がする。
「三年前のこと、ずっと気になってた」
しばらくしてから、父が突然そう言った。
「あのとき、俺も言い過ぎた。お前が東京でやっていきたいっていうのは、わかってたんや。でも、うまく言えんかった」
美咲は手を止めた。父がこんなふうに話しかけてくるとは、思っていなかった。
「私も言い過ぎた。ごめん」
「そうか」と父は言って、また豆をもぎはじめた。
謝罪はそれだけだった。長くも短くもない。けれど、それでほんとうに十分だった。二人は黙って、残りの豆を収穫した。畑の土は湿っていて、指の間に黒い土がついた。秋の朝の空気は冷たく澄んでいて、どこかで鳥が鳴いていた。小さな和解の場所として、この畑のことを美咲はずっと覚えていると思った。
